ガイドライン作成など対応策を急げ
次に、イノベーションを促進する競争政策とは何かに話を移そう。このテーマで議論を深めるには、特許などの知的財産権と独禁法との関係から説明を始めなければならない。
特許は「特に許す」とも読めるように、国が発明に対して独占権を与え、産業の発展に寄与することを目的にしている。
特許で認められたアイデアや技術は、それを発明し、特許権を持った人に無断で利用ができないようにするための、一種の“独占権”である。そのため、文字通り独占を禁止する独禁法とは水と油の関係にあり、特許は独禁法上、適用除外の扱いを受ける。ただし、特許法と独禁法の運用には「インターセクション(共通部分)」があり、ここで火花を散らす事例が頻発しているのだ。
この共通部分とは、製品などの開発に必要な特許のパテントプール(新しい技術をつくりだす際に、多くの特許権を各機関、メーカーなどが持ち寄って、一括してライセンスを取得する仕組み)を構成する「標準必須特許」を指す。
例えば、アップルとサムスン電子の特許侵害訴訟は主にこの仕組みが争点になっており、近年、米欧の裁判所の判断は標準必須特許の濫用に歯止めをかける方向に傾いている。
強すぎる独占権を抑制しようという考え方で、こうした動きを後藤は次のように総括した。
「米国がアンチパテント(反特許政策)になることはありませんが、反トラスト法の立場からいきすぎを是正しようとしているのは確かです。あまりに強力な独占はイノベーションを阻害するとして、製品などの差し止めを簡単にはできないような裁判所の判断が出ています」
そう話したうえで、日本の公取もこの点について米国、EUと足並みをそろえる必要があるとの考えから、ガイドラインの作成など対応策を急ぐよう促している。
(文中敬称略)
県立修猷館高校卒。1968年一橋大学経済学部卒業。73年同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。2012年2月から現職。07年2月から5年間、公正取引委員会委員。