ラグジュアリーとスポーツは補完しあえる

一方、ピノー氏は未練を持たず、恩情をかけず、潔く流通・通信事業を手放し、新分野に足を踏み入れた。この思い切った経営判断で売り上げは激減する。13年度の売り上げは5年前の約半分だ。だが、利益率は逆に約9%から約18%へと伸長している。目先の数字にとらわれず、選択と集中を敢行し、収益性の高い企業へと脱皮できたのは、経営ビジョンを明確に描いていたからにほかならない。

【ピノー】「ラグジュアリーのターゲットが30才以上なのに対して、スポーツはその8割が15才~30才の年齢層をターゲットにしている。この部分で2つは補完しあえるのです。また、持続可能な成長を実現するために新たな市場を開拓する必要がありますが、ラグジュアリーとスポーツはその意味でも有効です。過去50年を振り返ると、世界の経済の90%は北米、西ヨーロッパ、日本の3つの地域に集中していました。しかし、現在は中国を始め、アジアの成長が著しく、中南米や東欧なども含めた新興市場で今後30億人の消費者が生まれると有望視しています。こうした地域の消費者は若く、野心があります。生活を良くし、自己表現を強めたいという志向が強く、ウェルネスに関心を持つ人がどんどん増えていくでしょう。ラグジュアリーとスポーツという2つのセグメントの特化は未来に通じているのです」

経営資源は無限ではない。流通・通販事業を残した上でラグジュアリーやスポーツにウエイトを置くという選択肢も不可能ではないが、それでは投入できる資源が限られる。いまは何に注力すべきか。ピノー氏が見据えるのは過去の成功事例ではない。消費が豊かに生い茂る未来だ。

※1ユーロ=140円で計算

(三田村蕗子=インタビュー・構成 宇佐美雅浩=撮影)
【関連記事】
ルイ・ヴィトンと無印とカレーの共通点
不況でも、なぜ高級ブランド品が売れるか
「苦闘派」に支持されるのはどんなブランド?
“大人可愛い”は日本人女性の個性?
LVMHが早稲田大学とパートナーを組む狙い