「ビジネスモデルを変えることが私のミッション」

フランソワ=アンリ・ピノー氏

変革の主は、05年に事業を継承した二代目のフランソワ=アンリ・ピノー氏だ。中心企業の一つ、プランタンを06年に売却すると、翌年にはスポーツブランドのプーマの買収に踏み切った。

PPRはいったいどこへ進もうとしているのか。業界関係者が抱いた疑問への答えを、ピノー氏は行動で示した。その後も、家具店や通販事業などを売却する一方で、イタリアのメンズファッションブランド・ブリオーニやボード系スポーツを核に幅広いラインナップを手がけているボルコムをグループ内に吸収するなど、事業のスクラップアンドビルドを積極的に推し進めている。

もう誰の目にもピノー氏の狙いは明らかだ。PPRは、既存の古い衣を脱ぎ捨て、絢爛豪華に見えながらも、アクティブでライフスタイルを重視する現代人の志向にマッチした軽く洗練された衣装を身にまとい始めたのだ。

グループを構成する企業の顔ぶれが変わるにつれ、地域別の売り上げ構成比も大きく変わった。つい5年前まではフランスからの売り上げが全体の45%を占めていたが、現在はわずか5%。ラグジュアリーブランドだけでいえば、西ヨーロッパからの売り上げは33%、アジアパシフィックは31%、北米は19%、日本は10%。いまのケリングに、フランスを主な舞台とする土着型企業の片鱗もない。完全なグローバルカンパニーだ。

【ピノー】「父の時代のPPRは、西ヨーロッパ、特にフランスに軸足を置いたコングロマリットでした。というのも、2000年に至るまでは経済が完全にはグローバル化されておらず、狭い地理範囲でしか経営を考えることができない制約があったからです。しかし時代は完全に変わりつつありました。そこで、ビジネスモデルを変えるのが私の最初のミッション。グループの中の方程式を変え、グローバル化された組織に変わっていくためにビジネスを特化し、国際的にシェアを伸ばすことができる世界的なリーダーになろうと決めたのです。

では、グローバルに通用するのは何か。そう考えた時に念頭に浮かんだのが、すでに国際的なビジネスになっていたラグジュアリーなアパレルやアクセサリーです。しかし、ラグジュアリービジネスはそれほどの規模にはつながりません。世界的リーダーになるためには規模は不可欠。そこで、ラグジュアリーの中でマスマーケットにもアピールできるもうひとつの柱を作り出していこうと、スポーツ&ライフスタイルブランドの展開をスタートしました」

現状のままではこれ以上の成長が見込めないからと、新たな分野、新たな市場に挑戦する。これは企業としては当然の方向性だ。

だが、繁栄の礎を築いた既存事業を切り捨てることについてはどうだろう。縮小はしても売却までには踏みきれない。温存するだけで大胆な組織改革を断行できない。ぐずぐずと決断を先延ばしにした結果、本体すべてが傾いていく。そんな例の方が多いのではないか。