TPPと言うと、すぐさま日本の農業が壊滅するとか国民皆保険制度が崩壊させられるとか騒ぐ人がいますが、そんなことはありません。ただし、TPPが日本経済の構造を大きく変える力を持っていることはたしかです。

たとえば、生命保険。日本の生保加入者が一番悩むのは、末期ガンで余命1年なんて宣告をされたときです。仮に1億円の生命保険に入っていても、当たり前ですが、死ななきゃ保険金は下りない。でも、どうせ1年後に死ぬのなら、その前に世界一周旅行をしたい。あるいは、ダメもとで保険適用外の先進医療を受けてみたいと考える人は多いはずです。そこで、30年払い込んだ1億円の生命保険を解約しても、戻ってくるのはせいぜい300万円程度でしかありません。

ところが、アメリカには生命保険の買い取りを専門にやる業社がたくさん存在するのです。1億円の生命保険に30年加入していれば、おそらく3000万円ぐらいで買い取ってもらえるはず。生前にこれだけのお金が手に入れば、世界一周旅行も最先進医療も夢ではありません。

多くの日本人は、生命保険の買い取りサービスの存在すら知りませんよね。TPPに加盟すれば、こうしたサービスを受けられるようになるのです。これは、明らかなメリットじゃありませんか。

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図3 主要国の農産物平均関税率

いやいや、保険はいいけれどコメだけは守ってもらわねば困るとおっしゃる人がいると思います。では伺いますが、日本の農業はGDPの何%を占めているでしょうか? 答えはわずか1%。コメは、さらにその何分の一にすぎません。しかも、図3を見ていただければおわかりのように、日本の農産物の平均関税率はすでに十分低い。主要国中アメリカに次いで下から2番目の低さです。これを少し下げたところで、一部の作目を除けばマイナスの影響はほとんどありません。

私は岩手県・紫波町の復興支援活動をやっていますが、岩手のリンゴ農家の皆さんは、現在、17%のリンゴの関税が撤廃されてフリー・トレードになれば、むしろアメリカに日本のリンゴを売りやすくなってマーケットが拡大すると、諸手を挙げてTPPに賛成していますよ。

じゃあ、いったい誰が反対しているのかと言えば、それは農協です。もしも農産物の関税がゼロになって、海外に自力でバンバン輸出する“農業版トヨタ”みたいな農家が増えてしまったら、集荷、選別、出荷を一手に担っている農協はやることがなくなってしまう。だから「鉢巻きしろ」なんてすごんで、猛反対をしているだけのことなんですね。