このままじゃ「普通」になる
私が「スローガン」を立ち上げ、こうしたベンチャー企業と人材のマッチングを事業にしたのは、ベンチャー企業は玉石混交で、小さな会社であるほど経営者の価値観や理念と合うか合わないかが重要になるからです。よっていま現在数百人以下の規模で、これから伸びていきそうな企業を選別し、若い求職者とマッチングさせる機能が社会にもっともっと必要だと考えたんですね。
私にはこの事業に社会的な意義があるという思いがあります。
その思いの背景には、以前にIBMというそれこそ大企業で働いていたときの体験がありました。
学生の頃の私は、「エクセレントな会社に入れば、自分もエクセレントな人材になれるんじゃないか」という思い違いをしていました。それで実際に入社して違和感を抱いたのですが、それはよく考えてみれば当たり前のことでした。社員が2万人もいる会社というのは、人ではなく仕組みが優秀なんです。その意味で働く社員の多くはそこそこに優秀であるか、「普通」の人材であればいい。どんな人たちが集まっても高い価値を出せるような仕組みをつくれたからこそ、あれだけの大きな会社になれたわけです。
当時の私は官公庁のシステムをつくる部署にいました。プロジェクトはすでに7年目に入っていましたが、さらに7年間続く14年計画の8期目――みたいな仕事です。そこで誰が使うのかもよくわからない画面をずっとつくっていると、まさに仕組みの中で働いている実感だけは強く得られましたね。
そのころはまだ20代で、自分の人生や働き方をこれから模索していこうとしている自分にとっては、何か恐ろしいことのような気がしました。「このままいるとこの素晴らしい仕組みの中で、自分自身はすごく普通の人材になってしまうかもしれない」という危機感を持ったんです。
もちろんIBMだって、昔は志に溢れた会社だったはずです。ただ、組織の雰囲気は企業の成長カーブやライフサイクルの成熟度に左右されるんですね。私が入社した頃の日本IBMは社員数もピークを迎えた成熟期にあって、以降10年間近く、減収減益が続く衰退フェーズを迎える時期にありました。