肝心要のアンガーマネジメントでの叱り方のポイントについて、安藤さんは「論点」「ルール」「目的」の3点をはっきりさせることで、「特に最後の目的が重要だ」という。このことをわかりやすく、ある会社の営業部内で、毎週月曜日の朝にインターネットを介して提出することになっている営業報告書を出さない常習犯の部下がいて、そのことに対して堪忍袋の緒が切れた上司の部長が、部下を叱るシーンを想定しながら、安藤さんに解説してもらうと次のようになる。
まず、部長はなぜ怒ったのか。そう、毎週月曜日の朝に提出することになっている営業報告書をまったく出さなかったからである。では、ここでの論点とは何なのだろう。部長の立場からすれば「毎週、月曜の朝に必ず営業報告書を出してほしい」ということになる。これに関しては明快だ。次にここでのルールは何かというと、「ネット上にアップしてある営業報告書のフォーマットに記入して、毎週月曜の朝9時までに部長に送信すること」で、これも事前に全員に周知されていれば、これまた明快といえよう。
そして、残る目的についてだが、よく「売り上げをアップするため」ということをあげる上司が多い。しかし、これでは部下から「別に営業報告書を出さなくたって、現に売り上げ実績を残しているじゃないですか」と反論されてしまう。「行動を管理するため」としても、「毎日、口頭でお伝えしているはずですが」となるのがオチ。目的は何か? 安藤さんにいわせると答えは簡単で「営業報告書を出すこと」。それだけでいいそうだ。要は前出の染谷さんがいうように、部内の秩序、規律を守らせることが目的なのだ。そこに「売り上げアップ」や「行動管理」など余計なものを付け加えると、部下に反論の余地を与えてしまうだけだ。
安藤さんは、それともう一つ大切なこととして「一度決めたルールを簡単には変えないこと」をあげる。この例でいうと、毎週月曜日の朝9時までに営業報告書を部長に送信するルールに“適用除外者”をつくらないということだ。ある部下には送らなかったことを叱ったのに、翌週になると別な部下が送らなくても叱らなかったというのでは、「部長は自分の気分次第で叱っているのではないか」という疑心暗鬼を生む。ましてや、その対象者が固定されると依怙贔屓やイジメと勘違いされ、揚げ句の果てにパワハラ騒動に発展しかねないので要注意なのだ。