なぜホンダの収益力は上がらないのか

なぜホンダの収益力がここまで落ちているのか。単純明快に言えば、いくらクルマを売っても儲けが薄く、利益が積み上がらないからだ。国内で売れているホンダ車の半分は軽自動車、その他も「フィット」などのコンパクトカーが主流である。これらを安く作れていればまだ多少利益を積み増すことは可能なのだろうが、「フィットはライバルに対して優位性を出すためにコストがかさみ、利益はゼロ同然。軽自動車はそれより多少いいが、こちらもコストはライバルに比べて高い」(ホンダ関係者)という。

クルマをできるだけ安く作り、競争力のある値段で売るという薄利多売を基本とした拡大路線が加速したのは、現相談役の福井威夫氏が社長に就任して以降のことだ。クルマの製造コストを落とすことは大衆車から高級車に至るまで、クルマ作りの基本中の基本で、別に間違ったことではない。が、利益の積み増しはクルマを安く作ることと、そのクルマを高く売ることの両輪で成り立つ。ホンダは得意分野である技術力が生かせる前者については非常に熱心に取り組んできたが、より難しいブランド価値の向上が要求される後者についてはほとんどチャレンジしてこなかった。

冒頭で述べたように、現社長の伊東孝紳氏は社長就任当時、「良い物を早く、安く、低炭素でお届けする」と、経営方針を述べた。これは福井前社長の敷いた路線を継承するものだ。が、このうちホンダが自分である程度コントロールできるのは、早いということだけだ。

クルマが良いものか、また安いかというのは消費者が決めるもので、メーカーが外に向かって公言するのは単なる宣伝文句にすぎない。また、ホンダは「エキサイティング“H”デザイン」なるデザイン改革を標榜したりもしているが、良いデザインの追求はどこのメーカーだってやっている。低炭素についてはこれまた世界のメーカーが血眼になって取り組んでおり、ホンダ一社が独走できるものではない。ホンダはトヨタに次ぐ世界2位のハイブリッドカーメーカーで、その分野ではある程度競争力があるものの、コンパクトカーや軽自動車では他社に力負けすることもしばしば。

つまり、良い物を早く、安く、低炭素でというのは努力目標にすぎず、経営のビジョンたりえないのだ。一方で、ホンダが自分の商品でユーザーをどう喜ばせ、またどういう新しい価値を創出するかといった、ブランド価値を上げるための道筋はまったくみえていない。ホンダは今年4月、中国市場で最高級車の「アキュラRLX」を初披露したが、その席上での挨拶にすら「早い安いうまい」を盛り込んだ。そんな宣言を富裕層に向けてもやってしまうあたりが、今のホンダの思想が極度に硬直化していることの何よりの表れと言える。