――1930年代の大恐慌とも比較されます。

大恐慌よりも今回の危機が深刻なのかどうか、単純には判定できません。政策当局が大恐慌時よりもすばやく行動しているという点で、先行きは楽観的になれます。一方で、国際金融システムが大恐慌時よりも複雑化しているという点で、不安材料が多いのです。

飛行機にたとえてみましょう。操縦室のドアは閉められ、その中は見えません。乗客はいつもと同じ飛行と思い込み、ソフトランディング(軟着陸)を期待しています。しかし、操縦席の中をのぞくと、状況は一変します。

第一に、どの空港に着陸したらいいのか、分かりません。今回の危機はいわゆる「複数均衡」に相当し、空港も複数あるのです。第二に、計器盤からは断片的な情報しか得られません。政策当局は危機の全体像を把握していないということです。第三に、マニュアルがありません。これまでと違う危機が発生しているため、従来のマニュアルは使い物にならないのです。第四に、着陸手段が以前ほど有効ではなくなっています。第五に、パイロット同士で意見が一致しません。

つまり、1930年代と比べ状況は格段に複雑になっており、その分だけ政策当局は難しい問題に直面しているのです。仮に私自身が政策当局の一員になるよう誘われたら、非常にためらうでしょうね。政策のかじ取りがこれほど難しい局面はめったにありませんから。

肝に銘じておかなければならないのは、今回の危機は国際金融システム内の危機ではなく、国際金融システムそのものの危機だということです。簡単に収まる危機ではありません。刻々と変形し、一層複雑になる危機です。不幸にも、世界経済を支えるべきサーキットブレーカー(遮断機)が機能していません。

サーキットブレーカーは通常、3つあります。

1つ目は政策対応。雪崩を打って危機が変形していくなかで、政策当局は先手を打って対応しなければなりません。そうすることで、危機はようやく終焉を迎えます。現実はどうかというと、当局の対応は大幅に遅れ、有効な対策を打ち出せないでいます。2つ目は息切れ。通常の危機は時間とともに勢いを失うものです。ところが、今回の危機は国際金融システムの中枢を直撃しました。複合的な波紋を引き起こし、逆に勢いを増しています。3つ目は新規資本。新興国の政府系ファンドをはじめとした新規資本は危機発生時に出動し、銀行への出資や格安資産の買い上げなどで、システムを下支えします。しかし、危機発生当初の投資で痛手を受け、現在は様子見を決め込んでいます。

ここにきて、金融システム不安が薄らいだとの見方が出ているほか、景気好転の兆しも見られます。しかし、近いうちに危機が終わり、元の世界へ戻ると考えるのは間違いです。統計用語で言う「平均回帰」は成り立たず、元の均衡状態は戻ってこないのです。世界経済は「新たな行き先」に向けて荒っぽい旅路を歩み続けるでしょう。

※この連載は4回連載の2回目です。

(撮影=安部陽二)