モハメド・エラリアンMohamed El-Erian

世界最大の債券運用会社、ピムコ最高経営責任者(CEO)兼共同最高投資責任者(Co-CIO)。国際通貨基金(IMF)、ソロモン・スミス・バーニーなどを経て、ピムコに入社。その後、米ハーバード大学基金を運用するハーバード・マネジメント・カンパニーのトップを務め、2007年末にピムコに復帰。オックスフォード大学大学院にて経済学博士号、ケンブリッジ大学にて学士号を取得。

――日本は米国の住宅バブルとは距離を置き、欧米ほど深刻な金融危機に見舞われずに済みました。それでも、投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻した昨年9月以降、米国以上の株安や成長鈍化に苦しんでいます。

日本はサブプライムローン危機の直撃を受けず、ファンダメンタルズ(経済の基礎条件)が比較的良好でした。そうであったにもかかわらず、リーマン破綻をきっかけに世界が“心臓発作”に襲われると、その巻き添えになって倒れてしまいました。輸出主導型の経済構造を変えておらず、世界で危機が発生すると、その直撃を受けるのです。当面、日本の経済指標は上向かないでしょう。日本経済を立て直す魔術的な解決策はありません。

アジアには輸出主導型の国が多く、日本以上に深刻な危機に直面している国もあります。一例はシンガポールです。

今後の動向を占ううえでカギを握るのは「地域的要素」と「国内的要素」の2つです。地域的要素の面では、明るい材料が出始めています。中国経済が好転する兆しを見せているのです。中国政府は大規模な財政支出も決めており、いち早く危機を脱出すると思います。中国経済の復活は、日本経済にとって強力な追い風になるでしょう。

国内的要素の面では、日本では当局が景気テコ入れに向けて金融・財政政策を打ち出しているとはいえ、力不足の感は否めません。日本の国内環境を踏まえると、政府がなぜ慎重な姿勢を崩さないのかは理解できますが、より早い段階でより大胆な景気刺激策を導入すべきでした。

日本は経済的には厳しい状況に置かれているとはいえ、国際舞台では積極的な姿勢を見せています。昨年11月、IMFの財政支援のために、最大で1000億ドルの資金支援を実施すると表明したのです。世界経済の危機克服に向けて大規模な支援を決めた国としては、世界で第一号になったわけです。この点では日本は高く評価されるべきです。