開店当初はお客も入り、店の経営は順調に推移した。ところがしばらくして徐々にお客が減少し始め、1年も経ずに経営危機に直面した。
克服するには料理を増やすしかないと考えた飯嶋氏は、新しいメニューづくりに奔走した。
「お客さんにおいしいと言われるものをつくるにはどうしたらいいのかを常に考え続けました。おいしい料理はないですかと専門学校にも押しかけました。先生も迷惑だったと思いますが、恥も外聞もありません。『また来たのか』と言われるくらいに厚かましく押しかけました」
新たな料理づくりに精を出す飯嶋氏を支えたのが妻のマキコさんだった。自らも仕事を持つマキコさんは、チラシの製作やホームページの開設と更新など宣伝活動を含めて全面的に支援してくれた。独立・開業で成功した多くの人が、その要因として口をそろえて指摘するのが家族の理解と協力だ。家族の反対を押し切ってまで開業してもうまくいくはずがない。
そうした努力の結果、新規のお客が徐々に増えてきた。60歳を過ぎても体力の続く限りは店を続け、「湘南台で一番おいしい店を目指して頑張りたい」と意欲を燃やしている。
企業経営を維持・発展していくには、常に新しいサービスや商品を生み出し続けるイノベーションの追求が不可欠だ。同様に飯嶋氏も自分の料理に慢心することなく貪欲に新しい料理に挑戦し続けた。大手企業に勤めて高いポジションにいた人が持ちがちなプライドや恥を捨て、頭を下げて厚かましいと言われるくらいに教えを乞う。こうした姿勢がなければ、起業に限らず、60歳を過ぎて新境地で稼ぐことなどできないのだ。
(武島 亨=撮影)