開店後1年で経営の危機
実際に49歳で専門学校に入学し、開業の夢を叶えたのが飯嶋泰氏(58歳)だ。神奈川県茅ヶ崎市出身の飯嶋氏はもともとはバッテリーメーカーの工場勤務のサラリーマン。勤務先の工場が再編で閉鎖に追い込まれ、47歳のときに東京の営業部門に異動した。その頃に見たテレビ番組に刺激を受けたという。
「60歳の定年を機に、北海道の古い家を改装し、喫茶店を開業した人が紹介されていました。自分も料理をつくるのが好きでしたし、できれば定年になったら店をやりたいなと思ったのです。でもよく考えたら60になって開業するのは体力的にもきついだろうなと思い、早めに準備しようと決断。会社を辞めました」(飯嶋氏)
資格を武器にしたとしても起業は再就職以上に、気力・体力がものを言う。原材料の仕入れから経理、従業員の採用と管理に至るまで、すべてこなさなくてはいけないのだ。失敗もつきものだが、定年後の起業は極めてやり直しが利きにくい。
開業するには資金もいる。当時、会社には加算金付きの早期退職制度があり、それも飯嶋氏の背中を押した。
武蔵野調理師専門学校の夜間部に入学したのは49歳のとき。飯嶋氏が目指したのは本格フランス料理の店だった。専門学校に通う以外に、昼間は学校に紹介されたフレンチレストランで修業を積み、フランス料理教室にも通い、着々と準備を進めた。
04年9月に卒業。翌5月に藤沢市湘南台に「カフェターブルビジュー」をオープンさせた。このとき51歳。飲食店舗を居抜きで借り、改装費用や器具購入などの開業資金は約1000万円。建築設計の仕事をしていた兄に依頼し、安くあがったという。だが、脱サラしての50過ぎの開業、しかもフランス料理の店を開くことは周囲には無謀に映った。
「優秀なシェフが星の数ほどいるなかで、私がフランス料理の店を出すのが兄にはとても信じられなかったみたいで、どうせやるならラーメン屋をやれと言われました」