全力でやり遂げて「好転」を呼び起こせ

ロンドン五輪の開会式。テーマは「驚きの島々」。(PANA=写真)

それは第二のポイントである「ソフト遺産」にも繋がります。前回の1964年の東京五輪では、新幹線や高速道路網などのハードが遺産でした。「もうそんな時代ではない」という批判は理解します。しかし「だから五輪は要らない」ではなく「だから今度はソフト」なのです。

オリンピックでは世界各国から選手や観客が訪れるため、各国の言葉を操れる人材が必要です。交通機関の案内表示も多言語対応を図ることになる。その結果、海外観光客を迎える意識と態勢が整うはずです。そうした「ソフト遺産」は、日本が「観光立国」として生きていく道を拓くことになる。どこに行っても清潔。料理は世界一。人々は親切で、おもてなしの心がある――。そうした利点をさらに磨き上げ、「ジャパン・ブランド」を復活させるわけです。

なかでも東京は、世界有数のエフィシェンシー(効率)を持った都市です。2012年夏、私はプライベートでロンドンを訪ねました。開会式ではポール・マッカートニーが、素晴らしい歌声を披露し、感動を覚ました。イギリスの文化資産は大変レベルが高い。ところが、競技の観戦では、とても不便な思いをしました。会場間のアクセスが非常に悪かったのです。サッカーの「なでしこジャパン」の試合を観るために、市内の移動でも1時間半かかり、試合開始には間に合いませんでした。東京ではこのような事態にはならないでしょう。そしてイギリスに負けない文化遺産もある。日本と東京の魅力を世界にアピールする絶好の機会です。

日本には、魅力的な成長戦略が必要です。戦略を練る時間はあります。これはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)についての議論にも共通すると思います。当初から「参加拒否」では、世界から取り残されるだけです。まずは議論のテーブルに着き、そこから対処法を探る。変化を恐れるだけでは、成長は生まれません。成長は変化のなかにある。TPPについて言えば、具体的な影響が出るまでには10年程度の猶予があるはずです。それを見越したうえで、戦略を練るのです。

忙しくて疲れていても、運動をして汗を流すと、その前とは気分がガラリと変わります。日本も、心理状況を変えることが必要なのです。トレーニングは、始めるには覚悟が要る。最初は辛い。でも終わったら気持ちがいい。大変なことをやり遂げないと、好転も起こりません。東京五輪にしろ、TPPにしろ、何かを全力でやり遂げて国の気分を変えることが、いまこそ必要だと思います。

ローソンCEO、経済同友会 副代表幹事
新浪剛史

1959年、神奈川県生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒業。同年、三菱商事入社。配属は砂糖部。91年ハーバード大学経営大学院修了、MBA取得。95年ソデックス創業のため出向。2000年ローソンプロジェクト統括室長。02年ローソン顧問から社長に。10年より経済同友会副代表幹事。
(小山唯史=構成 小原孝博、飯田安国=撮影 写真=PANA)
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