仕事で失敗したくないと誰でも思うだろう。しかし仕事の失敗というのは、損得でしかものを考えない経営者から見た失敗であって、人間的な失敗ではない。むしろ失敗から得られるものは多い。それをいかに汲み取るかである。
私の人生も8割、9割が失敗と苦労の連続だったが、それが糧になっていると思う。
父親と母親の介護を8カ月間やったが、1日3食作って朝から晩まで下の世話をするというのは本当にしんどい。食事が喉を通らなくなり、体重がみるみる減った。血を吐き、鬱になり、こちらの身が持たなくなった。
しかし、人間は極限まで追い込まれると世界が変わるらしい。介護生活が5カ月目に入った頃、あれだけ苦しみに満ち溢れていた世界がガラリと変わって、澄み切った世界になった。そのときにたまたまニーチェを読んだら、これまでとは違う理解ができるようになったのである。あの苦労がなかったら、本(『超訳 ニーチェの言葉』)は書けなかっただろう。
成果がなかったということは、
無意味だったということではない。
たとえば、恋愛に成功しなかった
ということが、無駄だったとか、
心を痛めただけだったということを意味
しているのではない。
なぜならば、その苦悩の中で人は
たくさんのものを得るからだ。苦悩が
あるから成熟する。苦悩したからこそ、
新しく成長できる。喪失、艱難、苦悩は、
人に豊かなものを与えてくれるのだ。
●フランクル『死と愛』
前出のヤスパース同様、フランクルもまたナチスの強制収容所に送られて米軍に解放される経験をしている。数多くの著作を残しているが、自らの経験に裏打ちされたフランクルの言葉は平易でありながら力強く、非常に感動する。一度、読んでみてほしい。
1954年、青森県生まれ。ベルリン自由大学で哲学・宗教・文学を学ぶ。著書に『超訳ニーチェの言葉』『超訳 聖書の言葉』など。
※記事中で紹介した言葉はすべて白取氏の翻訳による。