セネカは紀元前後のローマ帝政時代の政治家であり哲学者だが、悲劇や人生についての随筆を数多く記した文筆家として知られている。『人生の短さについて』は非常に薄い本で読みやすいが、生き方についてのダメ出しが多いキツイ本でもある。セネカの言葉に頷けるならば、豊かな人生を見出せるかもしれない。

安定していないこと。
それこそが、
世界がここにこうして
存在するときの
定まった形なのである。
●ショーペンハウアー『自殺について』

アルトゥル・ショーペンハウアー●1788~1860年。ドイツの哲学者。多くの思想家に影響を与えた、生の哲学、実存主義の先駆。主著は『意志と表象としての世界』。(Getty Images=写真)

『自殺について』というショーペンハウアーの短い著作は、自殺を肯定している本ではなく、自殺がいかにバカバカしいものであるかということが書かれている。紹介した言葉はその中に出てくる一節である。

世の中、不安定なものなのだから、それに対応した生き方をするべきだとショーペンハウアーは言う。

彼が勧めるのは、「今を感じて生きる」ということだ。人は明日のことをあれこれと考えすぎる。たとえば明日のデートがうまくいくように、デートコースをシミュレーションしたり、話題を一生懸命考える。そのためのハウツー本もたくさん売られている。しかし、前もって準備をしてもうまくいかないのは当然で、相手も自分も生き物だから日々刻々状況は変わる。

大切なのはその場、その場に応じて感応することだ。つまり、感じて、対応するのである。世の中は常に不安定なのだから、その場を楽しむ。その瞬間を楽しむ。

厳しいことを言えば、震災や津波や原発災害からの「復興」というが、それはありえない。元の生活に戻ることは決してなく、置かれた状況に応じてやっていくしかないのだ。「元に戻りたい」と思って足掻けば足掻くほど、苦しむ結果になる。

現代人は効率よく生きるために、喪失や艱難や苦悩はなるべく避けるというスタンスで生きている。しかし、そういう苦しみを引き受けることが人を成長に導き、豊かな人生につながる。