出世は見込めず、そもそも会社の将来もどうなるやら。これからを考えるだけで、気持ちが滅入ってしまう――。ベストセラー『考えない練習』で読者から圧倒的な支持を得た名僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

昨今の不況により、将来に経済的な不安を抱く方が増えていると思われます。ただ、「将来やっていけるのか」と不安になるのは「この先も生活水準を上げていかなくてはならない。絶対に水準を下げたくない」という思いが、意識の根底にあるからだといえるでしょう。

まず申し上げたいのは、そのような不安は役には立たず、心の毒になるだけだということです。「上げていかなくては」といった思い込みは心を緊張させ、ストレスとなって自分を苛むばかりか、知らず知らずのうちに意欲を萎縮させて、創造力を失わせてしまいます。

人は、不安でびくびくしたり、緊張していたりすると、冷静な判断ができなかったり、能力を充分に発揮できなくなるものです。つまり不安を抱くことで、自分のパフォーマンスを落としてしまうことになってしまうのです。

この先、世の中がどのようになるのかわかりませんが、社会の経済事情や自分の収入など、その時々の状況に合わせて柔軟にやっていけば、何も問題はありません。もしも今より貧乏になったら、そのぶん節約すればいいのです。生活水準は「絶対に下げられない」ものではありません。大切なのは柔軟性で、状況に自分の身の丈を合わせればいいのです。

「どういう状況でもなんとかなる」と、将来に向かってゆったりと心を開いていれば、人は強くなれます。貧乏になったらなったで生活を変えていけばいいんだと、現状に執着しない人のほうが、のびのびと能力を発揮できて、その結果、物事がうまくいくと考えられます。

なお、年老いてみじめになりたくないと、老後のことを不安に思う方も増えているようですが、まだ若いうちから「老後の資金はどれだけ貯めれば」などと心配するのも考えものです。少なくとも守りの態勢に入ってしまうことで、やはり創造性が奪われます。ちなみに今の世の中には、成功者の情報がばらまかれ、それに引っ張られるようにして「みじめになりたくない水準」が高すぎる人が少なくないかもしれません。

いずれにせよ、未来の不安にとらわれるのは無駄なこと。それよりも今やるべきことに意識を集中するのが有益です。

月読寺住職・正現寺住職 小池龍之介
1978年生まれ。東京大学教養学部卒。正現寺(山口県)と月読寺(神奈川県)を往復しながら、自身の修行と一般向けに瞑想指導を続けている。『考えない練習』『ブッダにならう苦しまない練習』『もう、怒らない』など著書多数。
(構成=岩原和子 撮影=若杉憲司)
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