「就職力」でも引き留められない
かつての慶應関係者なら、「就職では慶應のほうが上だから」と鼻で笑ったかもしれない。ところが、その就職力をもってしても受験生を引き留められなくなった点に、今回の逆転の深刻さがある。
もちろん、慶應はいまもなお就職に強い。三田会を中心とする卒業生ネットワークを持ち、特に金融、商社、コンサル、IT、広告などへの就職実績は申し分ない。2026年の一般選抜志願者数も4万2033人で、前年比104.7%、3年連続の増加となった。医学部や薬学部など、早稲田にはない学部も持っているという強みは間違いなくある。
それでも早慶ダブル合格者からは選ばれなくなりつつある。つまり慶應は、単独では依然として強いが、早稲田と真正面から比較されると負けてしまう大学になったのである。最大の理由は、早稲田が自らの古いイメージを壊す改革を進めた一方、慶應がブランド力を強化する改革を進めなかったことだ。
リスクを背負った早稲田の勝機
象徴的なのが、2021年度に早稲田政治経済学部が導入した共通テストと数学I・Aの必須化だ。従来の私立文系入試では、英語、国語、地歴の三教科に集中し、数学を避けて難関大学を目指すルートが一般的だった。早稲田政経はこの常識を壊し、政治や経済を学ぶ以上、暗記力だけでなく、統計やデータを扱う数理的素養が必要というメッセージを打ち出した。
この改革には、志願者が減少するリスクがあった。それでも早稲田は、受験者数を集めることより、入学後の教育に適合する学生を選ぶことを優先した。2025年度には社会科学部や人間科学部でも共通テスト必須化や総合型問題の導入を進めている。
結果として、東大や一橋などを目指す国公立志望者や、数学を勉強してきた受験生からも選ばれる大学へ変貌した。
対する慶應はどうだったか。実学、就職、三田会、小論文という従来の成功モデルは確かに強い。だが、早稲田が志願者減少のリスクを背負って大学の中身を更新している間、慶應は過去に完成した枠組みを変える動きをしなかったのだ。

