世界が広がるほど味わう時間は減る
【要因②】所属するコミュニティ範囲が爆増した
二つ目が、関わる人間の数(コミュニティ)が爆増したことです。ネット時代以前は、人間関係は、学校、職場、家族、近所、といった比較的限られた範囲の中に収まっていました。その中で話題になるコンテンツも、ある程度限られていたように思います。昨日のテレビ番組、ドラマやスポーツの結果、話題の漫画や本の話……。一つのコミュニティに流行しているコンテンツなんて、せいぜい数個程度だったはずです。
しかし、SNSの普及によって状況は変わりました。今は、リアルな友人関係だけでなく、Instagram、X、YouTube、TikTok、LINEのオープンチャットなど、いくつもの場所に人間関係が広がっています。読書が好きな人のコミュニティ、音楽が好きな人のコミュニティ、観葉植物が好きな人のコミュニティ、さらにその中でも、それぞれの特定のニッチな領域を好む人々のコミュニティ。自分の関心ごとに合わせて、いくつもの小さな社会に参加できるようになりました。
僕はそのこと自体は良いことだと思っていますが、その一つの弊害として、個人が追いかけるべき情報が急激に増えてしまったと考えています。あの人が見ていた映画、今話題の本、流行している動画、界隈で話題になっているニュース。関わる人間の数、参加しているコミュニティの数が増えれば増えるほど、共有しておきたいコンテンツも増えていく。だから、一つの作品をじっくり味わうよりも、できるだけ多くの話題に触れておきたいと思うようになってきたのです。
「読んでいないと居づらい」
【要因③】コンテンツの存在価値が変化してきた
三つ目は、一つ目と二つ目によって、コンテンツの存在価値が変化したことです。
本を読む。映画やアニメを観る。そうしたコンテンツは、昔から誰かと語り合ったり、感想を共有したりしてきました。そうやって、コンテンツが人と人をつなぐきっかけになること自体は、とても面白いことです。
実際、僕自身も過去に、本好きのためのコミュニティをつくっていたことがあります。月に二度、読書会という形で、本について話をするだけのコミュニティでした。僕にとっては、その本好きだけで話せる時間というものが、すごく幸せな時間でした。
ただ、その中である参加者さんと話していたときに、「このコミュニティに入っているためには、本を読んでいなければいけない。この会は楽しいけど、最近忙しくなってきて、毎月本を何冊も読めないから、これからの参加は難しい」という話になったことがあります。
当時は、「ぜんぜん読まずに参加してくれてもいいですよ」とお伝えもしましたが、このように感じることは、ある意味で当たり前のことです。
本好きのコミュニティだから、本を読んでいなければ、その関係性は続きにくい。もちろん、人として仲良くなる部分もありますが、その中心にはやはり本の話がありました。

