※本稿は、ビューカー清美『世界一流の社交術』(アルク)の一部を再編集したものです。
米国務省に在籍する「ギフト担当官」
米国務省にはギフト担当官(ギフト・オフィサー(※1))がいて、大統領や高官の外遊に際して「誰に、どんな品を贈れば最も喜ばれるか」を研究しています。
元儀典長カプリ―シャ・マーシャル氏の著書『Protocol - The Power of Diplomacy and How to Make It Work for You(※2)』は、その舞台裏を生き生きと描いています。印象的なのは、オバマ大統領夫妻がイギリスの女王エリザベス2世に贈った一例です。オバマ大統領夫妻は、エリザベス女王に豪華な宝飾品ではなく、一冊の写真アルバムを贈りました。女王が敬愛した父ジョージ6世が1939年にアメリカを訪問した際の写真です。ページをめくるたびに甦る思い出が、ギフトそのものを「相手の心に寄り添う外交」に変えたのです。
日本でも同じです。首脳の外遊では、在外公館が相手の趣味や嗜好を徹底的に調べ、その国との縁を感じさせる品を選びます。1998年のクリントン大統領来日時、小渕恵三首相は迎賓館で蝦夷松とイタヤカエデの盆栽(※3)を贈りました。この盆栽は2012年、野田佳彦首相のワシントンDC訪問時に晩餐会の装飾として飾られ、十数年経っても日米友好の象徴として大切に扱われました。
金のゴルフボールを贈ったワケ
日本の工芸品や鉄道関連品は外交ギフトの定番です。環境問題に関心のある要人には間伐材や地域再生プロジェクトの和紙アートを、鉄道ファンには初代新幹線の模型や特別版写真集を、音楽好きには伝統楽器職人の小型楽器や復刻レコードを、歴史好きには日本と相手国を結ぶ外交の足跡をまとめた書籍が選ばれます。
高市早苗首相が誕生した2025年も、トランプ大統領の訪日において贈り物は重要なメッセージでした。金色好きのトランプ大統領には金箔を施したゴルフボールを贈り、「好みを理解しています」という親愛のサインに、さらには安倍晋三首相とのゴルフ外交を思い起こさせるゴルフクラブを加え、「友情の継承」と「関係の連続性」を表現しました。
重要なのは高価であるかではなく、相手の物語とのつながりです。「自分のことを考えてくれた」と感じる瞬間が外交もビジネスも一歩深く進みます。会社ロゴ入りノベルティで済ませるのではなく、相手の歩みや価値観に寄り添った贈り物を選ぶことで、静かな感動が生まれます。贈り物は、相手の笑顔を逆算して選ぶもの。小さな一品でも、関係を温める大きな力となるのです。
※1:外交訪問や公式行事で贈答品の管理・承認を担当する職員。贈り物の内容や価値が規定に沿っているかを確認し、記録・報告する役割を持つ。
※2:元米国務省儀典長が実務に基づき外交儀礼の重要性と実践法を解説した書籍。アメリカでは2020年にハードカバー版が刊行され、2021年にペーパーバック版も発売された。
※3:日本文化の精髄と恒久的な友情の象徴として選ばれたもの。盆栽は長い年月をかけて育てられることから、日米関係の長期的な発展を意図する象徴という意味合いも込められたとされる。クリントン大統領自身もその盆栽を「日米同盟の生きた象徴」として慈しんだと語っている。


