感情を完全に排除することはできない
近代社会では、感情的な人間はネガティブな評価を受けがちだ。ビジネスの現場では「冷静沈着であれ」「感情を表に出すな」と教えられる。
会議で声を荒らげる者は未熟と見なされ、涙を見せる者は弱いと判断される。理性的で、感情に左右されず、常に合理的な判断を下す。それが「できる人間」の理想像とされている。たしかに、感情に振り回されて判断を誤ることは多い。
怒りに任せて部下を怒鳴れば、その部下との関係は修復不能になる。嫉妬に駆られて同僚の足を引っ張れば、巡り巡って自分の評価を下げる。恐怖に飲み込まれて交渉で譲歩しすぎれば、大きな損失を被る。
こうした事例を見れば、「感情は敵だ」という結論に至るのも無理はない。しかし、感情を完全に排除しようとするのは、根本的な誤りだ。
なぜなら、感情は人間の判断の最も深いところに根ざしており、それを無理に抑え込もうとすれば、必ずどこかで歪みが生じるからだ。本当に重要なのは、感情を排除することではなく、感情を「マネジメント」することなのである。
感情のマネジメントとしてよく知られているのが「アンガー・マネジメント」、すなわち「怒り」とのつき合い方だ。
外務省で学んだ「理性の力」
怒りは、人間の感情の中でも最も扱いの難しいものの一つだ。一瞬で燃え上がり、取り返しのつかない言動へと人を駆り立てる。怒りに任せて発した一言が、長年築いてきた信頼関係を一瞬で壊す。怒りに駆られた一つの判断が、組織を終わらせることもある。
歴史を振り返れば、為政者の怒りが戦争を引き起こし、無数の人命を奪ってきた例は枚挙にいとまがない。
だからこそ、怒りをいかにマネジメントするかは、組織を率いる者にとっても、一個人として生きる者にとっても重要な課題となる。
私が外交やインテリジェンスの現場で学んだのは、怒りを感じた瞬間に、その怒りを一歩引いて観察することである。人間である以上、ドッと湧き出してくる感情的な怒りを完全になくすことはできない。
しかし、感情が湧き出ることは抑えられなくても、それを別の方向に向ける努力は可能だ。なんだかイライラする、怒りが湧いてきたと感じたとき、その感情がなぜ出てきたのか、どこから出てきたのかを客観的に分析し、できうる限り合理的に説明してみるのである。
ここでは理性の力が役に立つ。

