アベノミクスの要点は「大胆な金融緩和」
これから私たちの給料は上がるのでしょうか? この問題への答えは、ひとえに「アベノミクス」の成否にかかっています。アベノミクスが成功して順調にデフレからの脱却と景気回復が続くならば、給料は上がります。ただ、本当にそうなるかどうかが懸念されるところです。特に、この4月からの消費税増税は大きなリスクです。
まず現状はどうなっているかを確認してみましょう。賃金には「名目」と「実質」の2つがあります。名目というのは、貨幣額で表示されたものでこれは皆さんがいつも目にするものです。もう1つの実質というのは物価変動の影響を除いたもので、多少の計算が必要になります。現在、名目で見た賃金は上がってきています。
厚生労働省が2月に発表した毎月勤労統計調査によりますと、前年比で平均月間現金給与総額は横ばい、所定内給与は0.6%の減少、所定外給与は1.8%の増加、特別に支払われた給与は2.1%増になりました。所定内給与とは「きまって払われる給与」から所定外給与を除いたもので、所定外給与とは時間外手当、早朝出勤手当、休日出勤手当、深夜手当等の所定の労働時間外に支出される給与です。特別に支払われた給与とは、賞与や一時金などの手当をさします。これらは名目賃金と考えられ、全体としては臨時に支払われる支出は増えていても全体としては横ばいと考えられます。対して実質賃金は2013年の当初は上がって、後半は下がったため、前年度比で0.5%の減少という状況です。
ここでアベノミクスの論理をおさらいしてみましょう。一言でいえば、アベノミクスはデフレからの脱却を目的とした政策パッケージです。簡単に説明すれば、デフレというのは、カネの価値がモノやヒトの価値に対して上がりすぎている状態です。そうなると、多額の現金資産を持っている人はいざしらず、カネを使ってモノやヒトを動かす経営者や、働く側の労働者にとってデフレは苦しいことになります。さらに多くの資産家も、デフレよりインフレのほうが利益を得やすいのです。現に、日本の金融資産総額は約1598兆円(昨年9月時点)と過去2番目の大きさになっています(※1)。これは株価の上昇が大きく影響しています。バブル崩壊以降、日本の株式市場は停滞していましたが、海外では金融危機が起きたにもかかわらず金融資産の額は順調に増えています。ほどほどのインフレのもとでは、ただカネを寝かせておくのでなく知恵を絞り運用する資産家も報われるのです。
アベノミクスでは、デフレ脱却を目指してデフレによって上がりすぎているカネの価値を下げ、モノやヒトの価値を上げようとしています。中でも最も重要なのは、第一の矢といわれる「大胆な金融緩和」です。その理由は三つあります。第一に、デフレ脱却の主力兵器は何と言っても金融緩和です。けれどもデフレが15年ほども続き、人々がデフレになることを予想している現在、金融緩和は相当の覚悟をもった「大胆な」ものが必要とされます。第二に、第二の矢の「機動的な財政政策」や第三の矢の「民間投資を呼び込む成長戦略」にあたるものはこれまでも実行されてきましたが、唯一実行されてこなかったのが第一の矢でした。第三に、最近ではアベノミクスで重要なのは第三の矢だという意見が聞かれます。しかし成長戦略は、たとえ成長を促進する良い政策であっても実行までに時間がかかり、その数量的な効果は不確かです。その一方、第一の矢は失業率を下げていきますので具体的な効果が見込めます。