石油は大別して原油と石油製品から構成される。アメリカは、実は原油はまだ純輸入国である。つまり2025年時点において、アメリカの原油収支は410億ドルの赤字だった。そのうち、対カナダ向けの原油収支は実に760億ドルの赤字。つまり、アメリカはカナダからの原油輸入で計上した赤字を他国への原油輸出で削減しているのである。

原油輸入の6割を頼る相手との対立

カナダは世界第4位の原油生産国。例えば西部のアルバータ州には、極めて粘性の高い鉱物油分を含む砂岩(オイルサンド)が存在することで知られる。そのカナダから、アメリカは大量の原油を輸入している。原油の輸入量のうちのほぼ6割がカナダ産であるため、実はカナダ産の原油がなければ、アメリカは石油を輸出できないわけである。

そのカナダは、近年、アメリカのみならず、アジア市場やヨーロッパ市場に対して原油を売り込もうと戦略的に動いている。太平洋と大西洋の両沿岸部へのパイプラインルートの拡充と港湾の整備を急いでいるわけだが、カナダをアメリカの51番目の州と位置付けるアメリカのトランプ大統領にとっては、これは当然、気に障る取り組みだ。

2025年5月6日、ドナルド・トランプ大統領が、大統領執務室でカナダのマーク・カーニー首相と会談した。
2025年5月6日、ドナルド・トランプ大統領が、大統領執務室でカナダのマーク・カーニー首相と会談した。(写真=ホワイトハウス公式写真、Daniel Torok撮影/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons)

さて、ここで問われることは、実はアメリカも原油備蓄を取り崩しているという事実である。アメリカの国家戦略備蓄は9月14日週時点で2億8500万バレル相当と、対イラン戦争が始まる直前の2月23日週時点の4億1500万バレルから32%減少している(図表2)。民間備蓄はまだ潤沢だが、イラン戦争が長期化すれば取り崩しが進む。

【図表】アメリカの石油備蓄量
出所=アメリカエネルギー情報局(EIA)

米国が石油製品の輸出を絞ったら…

アメリカとカナダの関係が正常であれば、カナダからの原油の調達を増やすことで、アメリカは原油の取り崩しをマイルドにすることができる。しかし、両国の関係が悪化した現在ではカナダも容易に応じないし、カナダはカナダで、アメリカを経由せず、カナダ産の原油や石油製品を直接、アジア市場やヨーロッパ市場に輸出したいだろう。

それに、そもそもトランプ政権に冷静な判断を下す能力があれば、対イラン戦争を仕掛けなかったし、グローバルなエネルギーショックを引き起こさなかったはずだ。カナダとの関係も悪化することはなかったわけで、そのようなトランプ政権が“頭を下げる”形でカナダから原油の融通を受ける展開などまず予想しにくい。ではどうなるか。