自分のスマートフォンを教室の収納箱に入れる学校の生徒
写真=iStock.com/Dobrila Vignjevic
※写真はイメージです

全米最大の学区であるニューヨーク市公立学校は、8年生(日本の中学2年生相当)までの児童・生徒を対象に、生成AI(人工知能)の利用を1年間停止する。米国の学校教育におけるAI利用規制としては、最も厳しい措置の1つとなる。

ゾーラン・マムダニ市長とカマー・サミュエルズ教育長は9月2日、この方針を発表した。市当局がAI技術による学習や子どもの発達への影響を調査する間、低年齢の児童・生徒による生成AIツールの利用を1年間停止する。規制の対象は約60万人に上り、全学年でAIコンパニオン型チャットボットの使用も禁止される。

「子どもたちが学び、成長するためには、教師との関わりや人間同士のつながりが必要だ。同級生と一緒にスキルを身に付け、教育者との関係を築き、難しい問題に自分自身で向き合う必要がある」とマムダニはプレスリリースで主張した。

サミュエルズはさらに、「子どもの成長を支える人と人とのつながり、好奇心、創造性を守るため、私たちはガードレールを設けている。イノベーションとは、単にテクノロジーを増やすことではないという信念を堅持している。今後1年間、エビデンスに基づいて検討を進め、学びがテクノロジーに従属するのではなく、テクノロジーが学びに貢献するようにしていく」と語った。

マムダニの今回の措置は、学校教育におけるAIの役割をめぐって、教育関係者や保護者、政策立案者の間で意見の隔たりが広がるなかで打ち出された。一部の学区がAIリテラシー教育や授業でのAI活用を拡大する一方、無制限の利用は批判的思考力の発達を阻害し、スクリーンタイムを増やすほか、学問的公正性やプライバシーをめぐるさまざまな懸念を生むとして、新たな規制や制限を導入する学区もある。

ニューヨーク市のAI利用停止措置、その時期と理由は?

マムダニの方針では、就学前教育から8年生までの児童・生徒による生成AIの利用を1年間停止する。対象はニューヨーク市の公立学校に通う約60万人で、規制は2026~27年度から始まる予定だ。その間、市はAI技術が学習や子どもの発達に与える影響を調査する。

「Technology in Schools(学校におけるテクノロジー)」連合には、生徒、教育関係者、保護者の代表、選挙で選ばれた公職者、支援団体、労働組合、専門家らが参加し、新方針の影響を評価して報告書を公表する。

「テクノロジー業界は、AIを活用した幼児・初等教育が避けられないだけでなく、必要不可欠なものだと私たちに信じさせようとしている。しかし、私たちはそう考えていない。だからこそ、2-K(2歳児向け就学前教育)から8年生までの児童・生徒による生成AIの利用を停止し、今後1年間をかけて、この技術がもたらす影響を研究する」と市長はつづった。

この計画には、高校生を対象とした5つの限定的なAI試験プログラムも含まれる。英語教育向けの「Quill」、数学向けの「Edia」、文章や動画を使った指導向けの「Brisk Teaching」、さらに「Playlab」と「Intel AI-Ready Schools」などのツールが利用される。

ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事も今回の措置を支持し、プレスリリースで、「ニューヨーク州は、子どもたちがクリックやスクロールではなく、学びと成長に集中できるようにする取り組みを先導してきた。マムダニ市長がこの取り組みをさらに発展させ、ニューヨークの子どもたちを支援するという共通の目標を前進させていることを評価する」と語った。

AI利用を厳しく制限する学区

「ニューヨーク市の新たなAI対策は、おそらく最も厳しいものだが、他の主要学区と全く異なるカテゴリーに属するというほどではない」と、トーマス・B・フォーダム研究所の政策・運営担当シニアアソシエート、メレディス・コフィーは本誌の取材で話した。

コフィーはさらに、「LAUSD(ロサンゼルス統一学区)は13歳未満の児童・生徒によるAI利用を認めておらず、バージニア州フェアファックス郡では幼稚園から5年生までの児童によるAI利用を禁止している。その一方で、シカゴのように、幼稚園から高校3年生までのカリキュラムにAIリテラシー教育を組み込んでいる大規模学区もあり、対極的な対応を取っている」と言った。

全米で2番目に大きいロサンゼルス統一学区では、教育関係者が生徒の学習におけるデジタルツールの役割を見直すなか、授業でのテクノロジー利用に大幅な制限を設けている。テクノロジーが集中力や学習、子どもの発達に与える影響への懸念が高まるなか、同学区はスクリーンタイムを減らし、低年齢の児童によるデバイス利用を制限する方向へ動いている。

テキサス州のケイティ独立学区は、2026~27年度に向けたAI利用の枠組みを発表し、幼稚園から6年生までの児童・生徒が、Microsoft CopilotやGoogle Geminiなどを含む生成AIチャットツールを使用することを禁止した。学区当局は、生徒が生成AIを直接利用する前に、基礎的な能力や批判的思考力を身に付けられるようにすることが、この方針の目的だとしている。