聞き手のツボをつく工夫
「『なぜそれが、あなたにとって重要なのか』を説明してスイートスポット(聞き手のツボ)をつくことで、好奇心や興味を引きつけることが可能になります。その上で“共感”を得るために必要なのは“感性を刺激する伝え方”であり、ただ理屈を並べる以上に、相手と親密な共感を得られる部分に訴えていくことです」
これは言語学では“ラポール(ラポート)・トーク”と呼ばれ、親密な雰囲気や共感関係をつくり出そうとして、相手の情緒に働きかける話し方をいう。ラポールとはフランス語で「橋をかける」という意味で、相手と自分の心の間に橋が架かった状態になれたなら、オープンなコミュニケーションが成立し、お互いに影響し合えるようになる。つまり、どこか人間的な感情がうまれやすいというわけだ。
一方で、事実や情報を客観的に伝えようとする話し方を“リポート・トーク”という。米国の言語学者デボラ=タネンが著書(*)で、男性に典型的に見られる話し方として提示しているが、どちらかというと問題を解決したら解答をそのまま相手に伝えるなど事実伝達風になる。
つまり、前回お伝えしたジョブズ氏がこのラポール型、ティム・クック氏がこのリポート型に近い。どちらも名手ながら、ラポール型のほうがより聞き手の共感を呼びおこし、人の情動を動かしやすいのである。
前刀さんも同様に、論理を通した上でそれを押し付けるだけではなく、共感を呼び起こす“工夫”が大切だという。ルンバというロボット掃除機をたとえ話にあげて、その方法を説明してくださった。ルンバが掃除をすることは理解できるが、さらに見えない”感情”部分に訴えていることにも注目するべきであるという。