しかしこの登場からわずか5日後に、ローソンは彼女の前から見たイラストをpixivで募集している。このソーシャルサイトは、イラストレーターや写真家、漫画家などを志望する人々が自分の作品を自由に投稿でき、腕を磨く場と位置づけられている。それゆえ、このサイトとのコラボ・キャンペーンでは、質の高い約940点もの作品を集めることに成功した。
結局、このコンテストでは、「ゆめろぼ」氏という作家が描いたイラストが栄冠を獲得し、それが今日のお団子ヘアーの「あきこちゃん」の容姿となった。このイラストを見て、筆者は、優勝キャラクターの選定理由が、世相を反映してほのぼのとした、純朴な優しさをそなえた現代風の女の子と直感した。確認のために選定理由について白井氏に尋ねたところ、「このキャラクターで狙っているのは、ちびまる子ちゃんです。何年たっても生き残ってくれるキャラクターとして、流行り廃りをあまり感じさせないキャラクターにしようと思いました」とのことだった。確かにこの素朴な愛らしさ、透明感を持ちながらもどことなく庶民性を感じさせる容姿は、ちびまる子ちゃんに通じるものがあると思う。ちなみにその後、「ゆめろぼ」氏は「あきこちゃん」を主役に据えた四コマ漫画をローソンのホームページで連載し、好評を博している。
「あきこちゃん」の具体化は、正面からのイラストにとどまらず、音声にまで及んだ。音声専門のソーシャルサイトである「こえ部」で、声優オーディションを実施したのだ。こちらも上記のpixivと同様、声に関わる仕事に就きたいと思う人々が集い、交流するサイトである。「あきこちゃん」の声のオーディションには、イラストよりも多い約2800件の応募があったという。10年8月24日の審査で「有本」氏が選ばれ、その後、「あきこちゃん」の「肉声」がリアルのローソン店内やボーカロイド「あきこロイドちゃん」としてニコニコ動画のローソン・チャンネルを通じて流された。
キャラクター具体化へのこれらの取り組みは、ソーシャルメディア独特のメリットを生み出したと思われる。作品の創作に携わった多くの人々の熱い想いが、ソーシャルメディアを通じて共鳴し合い、「あきこちゃん」という一つのキャラクターに結実したのだ。この経験を共にした人々は、一種の同士として「あきこちゃん」に愛着を持ち、見守り続けることだろう。
言わずもがなだが、「あきこちゃん」創造の目的は、詰まるところローソンのコーポレートブランド・イメージのアップや経営成果の向上にある。リアルのコンビニエンスストアを1万1000店超も擁する大チェーンのローソンでは、ソーシャルメディアを駆使してリアルの小売店舗へ顧客を誘導することは極めて重要な課題といえる。