神戸大学大学院経営学研究科教授の平野光俊氏は、「ANAという個別の事例ではなく、非正規社員の正社員化一般についていえること」と前置きし、こう指摘する。

「通常は、契約社員にとって、正社員になることは働くうえでの強いインセンティブとなる。正社員になりたいと強く願うから、有能であることをアピールする。その場合、評価基準が明確であるほうに力を入れ、あいまいなほうが疎かになることがある。客室乗務員でいえば、少なくとも2つの業務(接客と保全)があるが、評価基準は接客では比較的明確であり、保全はあいまいなものになりがちと聞く。ANAは、客室乗務員には双方に力をより一層入れてもらいたく、入社時から正社員雇用の制度を始めたのかもしれない」

契約社員にとって正社員化があまりにも強いインセンティブになると、マイナスに作用する可能性があるということだ。さらに、ホールドアップ問題も指摘した。

「契約社員を正社員にすることで、一定の雇用保障を与える。それと引き換えに、働く側はその企業での特殊技能を高める。当然、そこで長い間、働くことを前提とする。つまり、労使双方が、リスクの分担をすることになる。今回のケースでいえば、ANAとしては正社員として長く働いてもらい、ANAの客室乗務員としての技能を高めてほしいと願ったのではないだろうか。一方で契約社員らは安心し、働くことができる」

平野氏のとらえ方と、ANAの河本氏の認識は重なる。河本氏は、こう語っていた。「多くの人に長く働いてもらい、他が模倣できないサービスを提供できる客室乗務員になってほしい。その1つの試みが正社員雇用だが、20年ほど前の、正社員の姿に戻るつもりはない」。

この20年間、客室乗務員の扱いは揺れ動いたが、今後の「正社員」は新しい位置づけのものになるだろう。

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