「真の四番」は人間性も要求される
それは本当にすばらしかった。でも、年が明けた20年開幕時点ではそれ以上でも、それ以下でもなかった。いくら前年に活躍したといっても、翌年も同様の成績を残せる保証などない。「ムネにはまだまだやるべきことがある」、そう考えていたからだ。
ようやく、本当の四番になるためのスタートラインに立ったに過ぎない。僕が考える「本当の四番」とは、具体的には次のようなものだ。
まずはチームを引っ張っていく存在であること。数字だけではなく、人間性であったり、普段の立ち居振る舞いであったり、発言であったり、いろいろなものが要求される。
当時20歳のムネに、それを求めるのは酷かもしれなかった。けれども、単に技術の向上を目指すだけでなく、人間性の成長も同時に、僕は求めていくつもりだった。
数字だけ見れば立派な四番だが、まだまだ
前年にあれだけの活躍を見せていたけれど、20年が実質2年目だった。そういう意味では、本当によく頑張っていたと思う。12球団に12人の四番バッターがいる中で、「スワローズの四番は村上です」と、胸を張って言えるぐらいの成績は残していたと思う。
もちろん、当初から手放しで絶賛できる活躍を見せていたわけではない。繰り返しになるけれど、彼には自分の発言だったり、立ち居振る舞いだったり、数字以外のことをもっともっと求めたかった。
成績だけでなく、いろいろなものが求められるのが四番打者だと、僕は考えていたからだ。
だから、この時点ではまだムネのことを「真の四番打者」とはまったく思っていなかった。もちろん、数字だけ見れば立派な四番だ。でも、それ以外はまだまだだった。
とは言え、プロに入ってから始めたサードやファーストの守備でも、本当に一生懸命頑張っている姿が見えたし、実際にうまくなっていた。決して本人には言わなかったけれど、守備でチームを引っ張る、打撃でチームに勇気を与えようと心がけていた姿は立派だった。
「王貞治の記録を破った日」の朝の変化
22年10月3日のシーズン最終戦、日本中が見守る中でムネはシーズン56号を放った。長年破られなかった王さんの55号を日本人打者として初めて更新した偉業だった。
この日のことはよく覚えている。朝、ムネと顔を合わせたとき、バッティング練習を見ているとき、いつものように他愛ない会話をしたとき、前日までとはちょっと違うリラックスした雰囲気を感じた。
僕はバッティングのことはよくわからないけれど、前日の阪神タイガース戦を休んだことで、すごくリラックスできたように見えたし、よく打っていた頃と同じようなスイングに戻っていたような気がしたのだ。
「今日は打ちそうだ」という確かな予感があったわけではないけれど、「今日、打っても不思議じゃないな」とは思っていた。

