国内マーケットの激変は、JTBにもダメージを与えた。売り上げは、1兆6000億円弱を記録した96年度をピークに減少傾向に転じ、09年度には赤字に転落している。10年度には回復したが、営業利益率は低く、1%をわずかに上回る程度。営業利益の低さは業界共通の傾向とはいえ、改善の兆しは見られない。

少子高齢化でこれ以上の成長は望めない国内マーケットに対して、外国人相手の海外マーケットはどうかといえば、これも厳しい状況にある。外国人からの収益は全体の1%にすぎず、99%を日本人から売り上げている。官公庁の調べによれば、日本の旅行業界における外国人旅行の取扱額は平均0.78%。JTBの数字はこれより多少は上だが、極端な日本人依存体質は明らかだ。

JTB代表取締役社長 
田川博己 

1948年、東京都生まれ。私立獨協高校卒。71年慶應義塾大学商学部卒業後、日本交通公社(現・JTB)入社。2000年取締役営業企画部長。02年常務取締役、05年専務取締役などを経て、08年から現職。

環境悪化に苦しむJTBを尻目に、カールソンワゴンリー、TUI、トーマス・クックといった世界の競合は成長を維持し、一方で、インターネットを舞台にエクスペディアなど新興勢力が台頭したため、JTBは世界1位の旅行会社の座から滑り落ち、ここ数年は5位、6位に甘んじている。JTB代表取締役社長の田川博己が現状、過去を見つめる目は厳しい。

「海外旅行人口が100万人に満たない時代には、旅行需要を開拓しようと懸命にやってきました。しかし、その後、放っておいてもマーケットが拡大する時代が訪れたため、努力をしなくなったんですね。だって、何もしなくても旅行人口が毎年100万人増え、運賃も値上がりして、JTBが売らなくても、自然増でお金がどんどん入ってきたんですから。

そんな時代を過ごした人には商品を開発するという発想はありません。しかし、以前はそうじゃなかった。東北の三大祭りだって、日程が同じで一度には回れなかったのを、いまのように日にちをずらして、回ってもらえるような仕組みをつくったんですよ。どうやったらハワイに行きたいと思ってもらえるのか。必死に考えぬいていた。いまはまさにああいう努力をしなくてはいけない時代です」

国内の市場規模の大きさにどっぷりと浸かり、過去の成功体験からなかなか抜け出せない。ある意味典型的な“ガラパゴス企業”を率いる田川は、痛烈な危機感のもと、専門性が高く意思決定の早い組織を目指して思い切った分社化を断行し、企業理念も変えたのだ。