「歩道通行の解禁」という愚策
かつて交通戦争と呼ばれるほど、交通事故による死者が増えた時代があった。
昭和30年代(1955年以降)、第二次世界大戦後の高度経済成長とともに、自動車交通が急成長した。ただしその社会変化に、歩道や信号機などの交通安全インフラの整備や警察官の増員等が追いつかず、交通事故も激増してしまった。
1970年には、年間の交通事故死者数は1万6765人に達した。これは統計開始以来、最悪の数字である。2025年の交通事故死者数は、約7分の1の2547人だから、当時の異常性がよく分かる。
当時の政府はこの対策として、極めて愚かな選択を行った。
1978年の道交法改正において、「指定された歩道では自転車の通行を認める(歩道通行の解禁)」という内容を盛り込んだのだ。
実は政府は1970年に「自転車道の整備等に関する法律」を成立させ、交通事故死亡者数を減らす決定打として、車道と自転車・歩行者空間の構造的分離を実現させるべく、同法律によって自転車道の規定を新設した。
ところが自転車道を整備する予算が足りず、自転車道の新設による交通安全対策が頓挫してしまった。そこで場当たり的な応急措置として、自転車の歩道通行を解禁してしまったわけだ。この応急措置政策がなし崩し的に定着してしまい、車両であるはずの自転車なのに、歩道走行がデフォルトとなってしまったわけである。
自転車vs歩行者の事故がじわじわ増えている
この歪みは、近年徐々に問題になってきた。
長年にわたる交通安全対策が功を奏し、交通事故全体の件数は減っているものの、自転車が関与する交通事故の減少率が少ないため、相対的に全交通事故の中で自転車関連事故の割合が増え、2014年に19.0%だったものが、10年後の2024年には23.2%まで増加してしまったのだ。
自転車が関与する交通事故は、死亡事故、重傷事故とも約8割が自動車相手なのだが、その件数そのものは減っている。しかし、自転車対歩行者の事故に関しては、毎年徐々に件数が増えており、2014年に2551件だったものが、10年後の2024年には3043件まで増加してしまった。
さらに、自転車乗用中の死亡・重傷事故のうち、約4分の3には自転車側にも法令違反があることが報告されている。
「自転車利用者の法令違反を減らさないと、交通事故が減らない」、これが自転車への青切符制度を導入した大きな理由である。


