広い駐車場に、兄の車がぽつんと残されていた
制度を変えるには、この問題を多くの人が知り、自分や家族にも起こりうることとして関心を持つことが大切である。介護保険は、保険料を納めている人の「最後の暮らし」を支える制度でもある。必要な人に、必要な時に、必要な支援が届く仕組みへ。終末期のがん患者を取り残さない制度づくりが、いま問われている。
兄が亡くなったとの知らせを受け、筆者は病院に駆けつけた。広い部屋の窓際に、ベッドは一台だけ置かれていた。兄は薄く目を開けた顔で、静かに横たわっていた。
窓の外を見ると、外来患者用の駐車場に兄の愛車が見えた。お盆の時期で、ほかの車は一台も止まっていない。その広い駐車場に、兄の車だけがぽつんと残されていた。
2週間前、兄はその車を自分で運転して病院に来た。あの日も、診察を終えたら、自分で運転して帰るつもりだったのだろう。しかし容態は最悪で、兄は緊急入院し、そのまま亡くなった。運転などできる状態ではなかったのに。
駐車場に心細げに残された車が、兄の哀しさを代弁しているように思えた。制度が間に合わなかった時間は、こうして一人の人間の最期の風景として残る。介護保険は、申請書の上で動く制度ではなく、こうした時間を少しでも支えるための制度でなければならない。



