「医師だけではどうにもできません」

しかし、がんでは数日後、数週間後に急激に状態が変わることがある。食べられない、トイレに行けない、起き上がれない。さらに抗がん剤治療中には、治療そのものは続けていても、生活面では一時的に強い介助が必要になることがある。

訪問看護は医療保険で入ることができるが、食事、入浴、排泄、移動、福祉用具の手配といった生活支援は介護サービスの領域である。佐々木医師は「痛みは医療で緩和できても、食べられない、トイレに行けない、歩けないという生活上の困りごとは、医師だけではどうにもできません。そこには介護ケアサービスが必要です」と話す。

厚生労働省も、現行制度の中でがん患者が介護サービスを使えるよう、繰り返し自治体に通知を出してきた。直近では2024年5月31日、事務連絡「がん等の方に対する速やかな介護サービスの提供について」を発出し、要介護認定の結果が出る前であっても、保険者の判断で暫定ケアプランを作成し、介護サービスを開始できることを改めて示した。

認定調査を同日中に実施すること、オンライン調査や主治医意見書の簡易な作成、直近の介護認定審査会への付議なども、迅速化のための選択肢として挙げている。

車椅子を押す介護士の後ろ姿
写真=iStock.com/kazoka30
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患者さんの最期が、自治体の運用次第という現実

実際に、自治体の側でも動きはある。横浜市は2024年7月、地域ケアプラザや居宅介護支援事業所などに対し、「がん等の方への迅速な要介護認定に向けたご協力について」とする依頼を出した。

そこでは、申請書に早期認定が必要である旨を記載すること、主治医から認定調査の実施時期やサービス利用上の留意点を確認して区役所に情報連携すること、暫定ケアプラン作成に必要な範囲で一次判定結果を事業者に提供することなどが示されている。

一方、埼玉県の某自治体のように、介護保険の利用案内や申請手続きの情報は公開していても、がん患者向けの暫定ケアプランや迅速認定について、横浜市のような具体的な依頼文書や標準的な運用が市民・事業者から見えにくい自治体もある。

厚労省の通知は全国に出ているが、実際にどこまで仕組みとして整備され、関係者に共有されているかは自治体によって差がある。

つまり、現行制度の中にも「間に合わせる」ための道はある。だが、それは自治体が通知を読み込み、事業所と共有し、医療機関やケアマネジャーが動いて初めて機能する。佐々木医師はここに限界があると見る。

「通知が出ているから大丈夫、ではないのです。横浜のように具体的に運用を整えている自治体もあれば、そうでない自治体もある。患者さんの最期が、住んでいる自治体の運用次第で変わってしまうのはおかしい」