92年に行った早期胃がんに対する腹腔鏡下胃局所切除術は、徐々に対象症例数が減少してきた。それは『内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)』が開発され、リンパ節転移の危険がない粘膜がんの多くが内視鏡で一括して切除できるようになってきたからである。
「最初に腹腔鏡で胃がんを手術した大上先輩と“転移のあるかもしれない胃がんをもっと体にやさしい手術で治療する方法を考えましょう”と2人で考え、98年に胃がんセンチネルリンパ節生検の臨床研究を始めました」
現在は胃がん・食道がんの治療研究を行っているが、北川教授はもともと食道がんグループに属して研究を開始した。当時、慶應では胃グループと食道グループが分かれていたからだ。
86年、慶應義塾大学医学部を卒業。外科に入局。外科を選んだのは「医学部学生時代の臨床実習で食道がんの大手術を行った安藤暢敏先生(現・東京歯科大学市川総合病院長)が、その後も患者さんの術後管理を懸命に行っている姿を見て」という。2年後に済生会神奈川県病院へ出向。救急患者が次から次へと搬送されてくる。平均睡眠時間2~3時間程度でも患者の命と向き合って必死に患者を治療した。それが集中治療にたずさわりたいという思いにふくらみ、大学に戻るや北川教授は当時集中治療を最も必要としていた食道グループに所属した。
「食道がんの手術は大手術だけに消化器がんの中でリスクは圧倒的に高い。全国平均で手術関連死亡率3.4%、慶應でも1%程度です。慶應で比較的リスクを低くできているのは手術手技の向上のみならず術後管理にも力を入れているからだと思います」