一方、現在は優れた知識やアイデアが基盤となる「知識社会」に突入している。知識労働者は新しいアイデアを創出したり、人々を説得し動かしたりして成果を生み出す。工業時代に比べ、知識時代の労働者ははるかに多くの選択肢を持っている。たとえば「この電子メールにどう返信するか?」「このプロジェクトとあのプロジェクト、どちらに参加するか?」等々。また、複雑な意思決定が求められ、それが組織に価値をもたらす。個々の営業マンが時間の使い方をどう決めるかで売り上げには大きな差が出るだろう。

加えてウェブやメール、SNSといったデジタルテクノロジーがもたらした新たなツールは複雑で、生産性を飛躍的に向上させる可能性とともに、職場に混乱を持ち込んでいる。

私たちの調べによると、平均的な知識労働者が1日に送受信するメール数は約110通。多くのコミュニケーションが可能になる一方で、さして重要でない案件に振り回されるようにもなった。メールや携帯電話の発達により緊急の割り込み案件も増え、現代の仕事はまさに中断に次ぐ中断である。やはり私たちの調べによると、平均的な知識労働者が1つの作業に集中できる時間は11分。1日のうちで不必要な中断とその埋め合わせに費やす時間は全体の28%である。つまり、卓越した生産性を実現する可能性を持った情報技術が発展する一方で、私たちは情報の雪崩のなかで生き埋めにされる危険に直面しているということだ。

どうすれば私たちは生き埋めにならず、卓越した生産性を実現できるだろうか。

工業時代において生産性を高めるためには、生み出せる成果(アウトプット)に対して、できるだけ投入した時間とコスト(インプット)を削ることが必要だと考えられてきた。しかし、現在の知識労働者がより付加価値の高い成果を生むには、単純にインプットを削るだけではいけない。重要な仕事に費やす時間やエネルギーまで削ってしまえばアウトプットの拡大もおろそかになってしまうからだ。