匂わせと被害者性のアピール

さて、この3億回以上表示された彼の投稿に共通するものはなんだろうか。それは「匂わせ」「被害者性のアピール」「女性へのパワハラの否定」「本当は辞めたかった」「自分にはたくさんの応援メッセージが届いている」といった要素である。

この「被害者性」「相手は若い女性」「ハラスメントの否定」「出演陣やファンや映像関係者も俺の味方」といったポイントがそろった結果、彼の熱心なファンや、またX上で正義感やミソジニー(女性嫌悪)のぶつけ先を探している第三者に対して「相手の女性俳優を攻撃してもOKだ」という免罪符のように働いてしまった。現代のソーシャルコミュニケーションにおいて警戒すべき「犬笛(ドッグホイッスル)」が吹かれた状態である。

「犬笛(ドッグホイッスル)」の恐ろしさ

佐藤二朗氏の投稿は、表向きは「繊細な俳優の内心の吐露」という無害さと苦悩を装いながら、裏では特定の支持層やネットユーザーに対して「あいつを叩いてもいい」という攻撃のシグナルとなってしまったのだ。

彼が直接、橋本愛氏を名指しして誹謗中傷や扇動をしなくとも、3投稿で3億3000万インプレッションという圧倒的な量のメッセージがタイムラインに現れれば、何が起こるのか。メディアの内側で仕事をし、また「演じる」ことを生きる糧にしてきた彼が、それをわかっていなかったとは思えない。

この騒動の本質は、単なるSNSの炎上劇ではない。『週刊新潮』に掲載された佐藤二朗氏自身の100分に及ぶ「独白」を冷静に読めば、そこには「よかれと思って」を言い訳に行われるハラスメントの本質と、それを増幅させてしまった本人の周囲のガバナンス不全という、芸能界のみならず、一般的な企業や組織にも通じる、構造的な問題が浮かび上がる。

「ベストファーザー」に贈られるイエローリボン賞を受賞し、喜びを語る俳優の佐藤二朗さん=2019年6月5日午後、東京都内のホテル
写真=共同通信社
「ベストファーザー」に贈られるイエローリボン賞を受賞し、喜びを語る俳優の佐藤二朗氏=2019年6月5日、東京都内のホテル

佐藤の独白で、フジ報告書の正しさが判明

佐藤二朗氏が「真実をわかってもらうために受けた」という『週刊新潮』の独白インタビューを読むと、むしろ、フジテレビの報告書も、最初の文春オンラインの報道も、ほとんど間違っていなかったのだ、ということが確認できる。

起きた事柄にも、時系列にも、フジテレビの報告書と齟齬そごはない。ただ佐藤二朗氏の「主観」が、橋本愛氏やスタッフの受け止め方、そしてフジテレビ側の認識とは大きくずれていた、ということが浮かび上がるのだ。