「名古屋の料亭」でスタッフを鍛える
これらの施設に共通するのは、単なる良い席の提供にとどまらず、専用動線・専属スタッフ・非日常の空間演出をセットにした「体験としてのVIP」を設計している点だ。IGアリーナでの接客があまりにも行き届いていたので訊ねたところ、地元・名古屋の料亭で研修が行われたのだという。
私自身、古くは2006年のテニス全米オープンでマリア・シャラポワが優勝した際、このVIPルームでMLB放映権の商談に興じていた。近年では、IGアリーナのこけら落とし大相撲名古屋場所では、このスイートで各スポンサーと挨拶を重ねていた。
スイートの改修前ではあったものの、2025年の東京世界陸上では公式サプライヤーとして、国立競技場のVIPルームでシャンパンを呑みながらマーケティングデータの取得方法について議論していたものだ。
経営者が年間契約で買っていた「本当の価値」
「富裕層の特権だ」「格差の象徴だ」という批判が向けられるのも、当然だろう。だが年間契約という安定収益は、天候にも順位にも左右されない。この高額な年間契約料が、選手育成・施設維持・ファンサービスといったスポーツ基盤を支える原資になっている面は、無視できない。
グラウンドに背を向けて座り、資料を広げる経営者たち。彼らが年間契約料を支払って手に入れていたのは、席でも料理でも、野球観戦の眺めでもない。共体験による心理的距離の消失、時間制限のないクローズド空間、そして同じ層だけが集うクラブ機能。この3つが揃った「関係構築の場」そのものだったのだ。
そしていま、VIP席の高額な契約料が、私たちが観るスポーツの未来を、静かに支えている。


