ホワイトボードに記された“SOS”

6月某日、「ごはん処おかえり」を訪れた。出迎えてくれたのは店主の上野敏子さん。誕生日を迎えたばかりの58歳、通称「おかん」だ。

「おかん」こと上野敏子さん
筆者撮影
「おかん」こと上野敏子さん

2019年から任意団体としてこの店を運営する上野さんは、毎朝5時に店に入り、仕込みを始める。8時過ぎに、上野さんの母とボランティアのスタッフが手伝いにやって来る。同店は5名体制で月・水・金に営業している。

訪れたのはお昼過ぎ、そこへ高齢の男性客がふらりとやってきた。ボランティアスタッフの女性が「あら、○○さん」と声をかける。常連客のようで「今日の弁当は、何?」「ほな、それもらうわ」と総菜とおにぎりなど4パックを買っていった。間髪入れずに、他の客が訪れる。それが何度も続いた。

スタッフが持っていた来店者数のカウンターを見ると、開店時間からわずか3時間で70人が来店していた。先週の金曜日に至っては、1日で130人がこの店を訪れたという。

常連客の高齢者に惣菜を説明するボランティアスタッフ
筆者撮影
常連客の高齢者に総菜を説明するボランティアスタッフ

ホワイトボードには、色分けされた「正」の字が並んでいる。緑色は「子どもたち」。そして、紫色は「無償で支援が必要な大人」を意味しているという。

その数字からは、社会の片隅でSOSを出せず、じわじわと追い詰められている人のリアルがうかがえた。

先週の金曜日は130名が来店した
筆者撮影
先週の金曜日は130人が来店した

親子と向き合う「足跡帳」

夕方になると、学校帰りの子どもたちが無料の総菜とお菓子を求めて、賑やかな笑い声とともに店に入ってきた。

奥のテーブルには「足あと帳」と呼ばれるノートが置かれている。女の子の集団が、そのノートに書き出した。上野さんは、「子どもらは集団で来るし、とても全員は覚えられへんから書いてもらってる」と言う。

日付と学校名と名前を書き終わると、袋詰めされた駄菓子やチューペット、総菜を、まるで自分の家から持ち出すように手にしていく。初めて友達を連れてきたのだろうか、小学校低学年くらいの女の子が後ろの子に「ここに書いて、お菓子をもらうんだよ」と説明していた。

実は記帳させるのは、上野さんが子どもたちを管理したいからではなかった。子どもたちの親に、少しでも向き合いたいという思いがあるのだ。

「子どもって、遊びに行ってなかなか帰ってこないことってあるでしょ。心配した親から『今日うちの子、行ってますか?』って電話がかかってくることがあるんです。その時に、このノートを見れば、誰と一緒に来ているかがわかる。子どもたちの足跡を辿る目印になる」

昼過ぎには、短縮授業だった近隣の小学生であふれかえった
筆者撮影
昼過ぎには、短縮授業だった近隣の小学生であふれかえった