実力より学閥…会長の独断人事への疑念

会長の独断人事には、実は前例がある。洪氏の前任であるユルゲン・クリンスマン元監督も、チョン会長の判断で起用されている。ドイツ代表やアメリカ代表を率いた実績のある指揮官だったが、就任半年で韓国滞在はわずか67日にとどまり、大半をアメリカの自宅で過ごしていたとして批判を浴び、解任された。

洪明甫氏
洪明甫氏(写真=大韓民国/CC BY-SA 2.0/Wikimedia commons) 

会長の一存で選んだ監督が続けて成果を出せないなか、一つの共通点が注目された。出身大学だ。現代(ヒョンデ)財閥の一族であるチョン会長と洪氏は、ともに高麗大学の出身である。

高麗大学は韓国でソウル大学、延世大学と並ぶ最難関校の一つだ。BBCは、チョン会長らKFA幹部が洪氏を個人的に推したとの指摘が当時からあったと伝えている。

韓国国会は2024年、事実関係を明らかにするため、チョン会長を2度にわたり召喚している。当時与党だった国民の力の裴賢鎮(ペ・ヒョンジン)議員は、「KFA内部に特定大学の同窓ネットワークに基づくカルテルがあるといううわさがある」と追及している。

KFA側は縁故人事の疑惑を否定しているが、実力より学閥や縁故が優先される不公正な選考だったとして、国民の怒りは収まらない。

13年続いた「暗黒時代」

チョン会長は2013年の就任以来、通算4期・13年にわたりKFA会長を務めている。長期にわたる在任期間の中で、人事への介入や運営上の問題が繰り返し指摘されてきた。

アルジャジーラによると、同氏は過去に八百長で永久追放された元選手の処分撤回を働きかけたことがある。選考過程に疑義のある人事もあるとして、2024年の監督選任以前から取り沙汰されていた。

ファンの不満は、W杯を前にすでに表面化していた。コリア・タイムズが報じた2024年9月のW杯予選パレスチナ戦では、公式サポーター団体が「韓国サッカーの暗黒時代」と記した横断幕を掲げ、「チョン・モンギュ、出て行け」と声を上げている。

文化体育観光部はチョン会長が監督人事に不当に関与したとしてKFAに懲戒処分を勧告したが、KFA側はこれを不服として提訴した。コリア・タイムズによると、2026年4月の一審判決でKFA側は敗訴している。同部の監査では理事への不正支出など数十件の問題も指摘された。

一方、刑事捜査には目立った進展がない。監督選任への不当介入疑惑をめぐり2024年7月に始まった警察の捜査は、コリア・ジュンアン・デイリーによると、2026年7月時点で約2年が経過しても起訴判断に至っていない。

批判と法的追及が強まるなか、2026年5月、チョン会長は自らの「徳の不足」を認め、W杯終了後に辞任すると表明した。任期は2029年初頭まで残っていた。13年に及んだ長期体制が、終わりを迎えようとしている。