新たな技術のためには平気で産業を壊す
自動車産業を例に挙げましょう。いまは中国の自動車、特にEVは世界をリードしています。かねてから中国政府が一貫して支えてきた産業です。とはいえ、企業を保護して甘やかしたわけではありません。
中国政府はどうしたか。過度な競争を意図的に発生させ、自動車産業企業を一度瀕死の状態に追い込んだのです。
2014年頃から中国は、内燃機関の自動車をつくっても日本やドイツには絶対に勝てないことから一気にEVに舵を切った。そこで世界最強の「テスラ」に市場を開いたのです。
テスラに比べれば、中国でEVに関わる自動車会社はすべての部分で劣っていました。当然、一気に市場を奪われ、死屍累々と言った状況です。
ですが、中国政府は「世界の最先端との戦い方を自分たちで考えろ」というメッセージを陰に陽に出し続けた。これは、1978年の改革開放政策以来続く中国政府の伝統的な方針です。
その結果、テスラから徹底的に学び、マネし、新たな技術を確立した。そうして、生き残ったのがBEVの販売台数で世界一になったBYDなわけです。
忘れられないのは、2024年のドイツのテレビ局が北京国際モーターショーを伝えた番組です。キャスターが「新しいリチウム電池なら走行距離が1000キロまで伸びる」「10分の充電で600キロ走行可能」という情報を伝えたあとにこう語っていました。
「以前はドイツの自動車メーカーが中国に技術を教えていましたが、いまでは逆に中国から学んでいるのです」
すでにドイツの自動車メーカーでさえ、中国の新興企業とタッグを組まなければ、満足度の高い製品が造れなくなっているのです。
なぜ日本の造船業は抜かれたのか
明確に中国と日本で立場が逆転した、わかりやすい例が造船です。
以前、中国は「海洋弱国」と揶揄されていました。日本でもまさか造船分野で中国に逆転されるとは思っていなかったはずです。5、6年前のことですが、海上保安庁の幹部が「中国の船は細部がダメなんです。日本の船とぶつかったら沈みますよ」と話していました。中国の造船業の発展を知っていた私は、危機感のなさから日本の造船も近い将来、中国に逆転されるだろうと確信しました。
造船業は、資本金の調達が競争力を左右する資本集約型の産業です。
中国では2000年代初頭に、当時の朱鎔基首相が「2015年までに世界最大の造船国となる」と宣言していて以来、中国政府にとって重点的に支援する産業に位置づけられました。転機となったのは、2008年のリーマンショックです。日本を含めた造船先進国が投資に消極的になり、造船市場が低迷するなかで、中国だけは自国の造船業を支援し続けました。
その結果、中国は、造船の新規受注量や保有受注量などで世界一のシェアを獲得するまでに成長したのです。


