悩みや不安が頭を去来する頻度は変わらない
興味深いことに、この研究では、幸せな人でも「自分自身のこと」や「人生のトラブル・悩み・問題」、そして「未来への不安や不確実性」について考える頻度が幸福度の低い人と比べてまったく減っていなかった、という点が明らかになりました。
普通に考えれば、「幸せな人というのは、悩み事が少なくて、自分の問題や将来の不安について思い悩む時間が少ない人だろう」と思われがちです。
しかし、実験室の静寂の中に放り込まれたとき、幸せな人もそうでない人も、同じように「あのごちゃごちゃした問題はどうしよう」「これから先どうなるのだろう」と、自分の抱える現実的な課題や不確実性に等しく思考のエネルギーを割いていたのです。
違いは、ネガティブな思考のなかに、どれだけ「ポジティブな思考のボリューム」を共存させ、上乗せできるかという「足し算の視点」にあります。
幸せな人は、悩みや不確実性を頭の片隅に抱えながらも、それと同時に、あるいはそれ以上の頻度で、人生の素晴らしい側面や大切な人のこと、そして明日の目標へと心のスポットライトを自然と切り替えることができるシステムを持っているというわけです。
これが「幸福な人の思考習慣」と言えるでしょう。
判明した「幸せな人の脳内ルーティン」
それでは、この「足し算の視点」について詳しくみていきたいと思います。
この研究では、幸せな人ほど、何もしない時間に特定のテーマについて考える明確な傾向があることがわかりました。
まず「自分の人生における良いこと」を考えている頻度が圧倒的に高い傾向にありました。
ここでの「良いこと」とは「過去の楽しかった思い出」「今の恵まれている環境」「最近あった嬉しい出来事」などです。幸せな人ほど、普段の思考習慣として良いことに注意が向きやすいと言えます。
また、幸福度の高い人ほど「人間関係」について考える傾向がありました。
「人間関係」というのは友人・家族・恋人など、自分にとって大切な人のことを指しています。誰かと過ごした温かい時間や、大切な人の顔が何もしない時間に自然と心を満たしているというわけです。
ふとした瞬間に大切な人が思い浮かぶという点は、幸福研究の古典的知見である「幸福の最大の源は人間関係である」と見事に一致していると言えるでしょう(*3)。
さらに、幸せな人ほど「目標」について考える傾向がありました。
自分がいま達成したいと考えている目標にどうやって近づいていけばいいのか。そのためには何が重要か。このように幸福度の高い人ほど、ふとした瞬間に未来を創造するための前向きな精神活動に意識が向くようになっていると言えます。
以上、幸せな人の頭の中では、デフォルトの状態で「良いこと」「人間関係」「目標」という3つのポジティブな柱の周りを衛星のようにぐるぐると回り続けているわけです。


