ブームを後押しした“新制度”

こうしたブームを後押ししたのが、戸籍制度の更新だ。

戸籍の記録は、自身の父母・祖父母・曾祖父母など直系尊属のものであれば自由に取得することができる(身分差別的な記載が残るために封印された明治5年式を除く)。

かつては戸籍が保存される本籍地の役所・役場に申請する必要があったため、まず自身の戸籍を取得し、そこに「従前戸籍」として記されている親の本籍地に親の戸籍を申請、そこから祖父母の戸籍の所在を探し、今度はその役所に申請して……と膨大な手間がかかった。

かつての戸籍には戸主を筆頭に多くの人物が並ぶ
筆者撮影
かつての戸籍には戸主を筆頭に多くの人物が並ぶ。「番屋敷」という住所表示も昔のものだ

現実にはすべての役所を直接訪れることはできないので郵送でのやり取りになる。本籍地の移動を繰り返している人物がいると、1人分をすべて取得するだけで数カ月単位の時間がかかることも珍しくなった。ところが2024年から始まった戸籍の広域交付制度によって、全国どこの市区町村からでも各地に散らばる戸籍を一括して取得できるようになった。

役所業務に一定の負荷をかけてしまうことになるが、最寄りの役所に行って「自身の直系尊属の戸籍をさかのぼれるだけすべて取得したい」と依頼することも制度上は可能になったのだ。

かかる費用は1系統1万円以内

先出の市職員は言う。

「戸籍の保存期間は現在150年ですが、かつては80年でした。期限が過ぎても保管していた自治体が多いですが、スペースの問題などで廃棄されていたり、戦災で焼失したりして見つからないものもあります。それでも保存されていれば、明治時代の戸籍まで取得することが可能です。

2024年の制度改正以来、まとめて取得したいという申請は少しずつ増えています。仕事ですし、私自身はこうやって戸籍をさかのぼる作業が好きなので苦ではないですが、どうしても少しお時間はいただくことになります」

量にもよるが、申請から1カ月以上かかることも珍しくないし、役所によってはこうした申請の人数制限を設け、月ごとに予約枠を開放しているケースもあるという。

除籍謄本や改製原戸籍は1通750円、私の場合、転籍の記録も含めて取得可能な直系尊属の記録をすべて取得したため合わせて4万円ほどかかったが、「父方の祖父の系統」など1系統に絞れば、1万円以内で可能なことが多い。

戸籍の広域交付以外にも、制度的な進展があった。

2022年には「国立国会図書館デジタルコレクション」がリニューアルし、テキスト化が完了した数百万点の資料の全文検索がネット上で可能になっている。

著名人でなくても地域資料などに登場するケースは多く、祖父母や曾祖父母の痕跡を探りやすい。私は海上保安官だった母方の祖父の異動歴や叙勲の記録を「海上保安庁公報」や「運輸省職員録」から拾い出し、資料にまとめて母や叔父に渡したところかなり喜ばれた。

戸籍を取りよせる手数料とスマホ1台あれば、だれでも先祖の情報を探し始めることができるのだ。

樺太移住、再婚、養子縁組…知られざる痕跡

こうして集めた家族の成り立ちは、確実に過去へとつながっていく。

私の場合、両親それぞれの家族仲は良好で、祖父母にかわいがられた記憶もあるものの、その上の世代のことはこれまでほとんど話を聞いたことがなかった。父方・母方ともに祖父母の代で北海道に移住しており、古くからの菩提寺や墓もない。父方は九州、母方は関西方面の家系だと耳にしたことはあるが、それすらも定かではなかった。だが、戸籍をめくると、次々に知らなかった事実を知ることになる。

九州だと聞いていた父方の祖父の家系は長く熊本県長洲町に住んでいたようだ。関西だという母方の祖父は、生まれこそ神戸だが曾祖父母の代までは鳥取にいたらしい。父方の祖母はかつて、サハリン(樺太)に移住している。祖父母ともに再婚。

母方の曾祖父(母の父の父)は非嫡出子で、実母とは別の独身の女性と養子縁組している。母の旧姓はこの養子縁組が起点でその前は別の姓だった。「隠居により家督相続」との文言や「番屋敷」という住所表示など昔の制度的な痕跡を示す記述も多い。父子で同じ名前を名乗っているのも明治期ならではだろう。

嫡出子は「長男」「長女」などと書かれるが、非嫡出子は単に「男」「女」と記載されていたのも今回はじめて知った。

こうして家系をたどっていくと、単なる「名前の連なり」に留まらない一人ひとりの生きた痕跡がおぼろげながら浮かび上がってくる。

そしていまは、戸籍に記された祖父母やその上の世代の故郷が、現在どうなっているのか調べ始めている。今後、地域史の資料などにもあたるつもりだ。ひとつ何かを知るたびに、自分の輪郭が少しはっきりするような、言いようのない感覚がある。

過去の郷土資料は先祖の痕跡を探す貴重な資料になる
画像提供=丸山さん
過去の郷土資料は先祖の痕跡を探す貴重な資料になる。左は検地水帳と呼ばれる土地台帳、右は江戸時代の藩士名簿に当たる分限帳