「豊臣兄弟を善人に仕立てたいのか」

Yahoo!ニュースのコメントでは「上月城の惨殺すらなかったことにされてしまった」「そこまでして豊臣兄弟を善人に仕立て上げたいのか」「今後も、ひどいことは秀吉は命じていなかったと描くのだろう」「秀吉を現在の嗜好に合う良い人に描き、そのために史実を歪曲してまで嘘のエピソードを創作している」と批判が続出。

秀吉が記憶喪失になった理由は、尼子晴久主従を見殺しにしたという良心の呵責に耐えかねたからという描写についても、「よくそれで二十数年も信長の幕僚を務められてきたものだ」と呆れたような感想もあった。

Xではがっかりするあまり、「歴代最低大河ドラマ」「ワースト大河」とまで書いている視聴者もいる。

なぜこんな史実無視の描き方になっているのか。

記憶喪失のくだりを見て、筆者は気づいた。「豊臣兄弟!」は少年漫画的大河というよりは、仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズのような特撮ドラマのノリなのだ。秀長を始め家臣たちが次々に、かつて自分が秀吉に言った名セリフを再現してみせるコントのような場面では、秀吉が戦隊ヒーローのレッドに、秀長が補佐役のブルーに、蜂須賀小六(高橋努)が力持ちのイエローのように見えた。

そう、“子ども向け”を強く意識しているならば、主役のレッド(秀吉)はピュアな存在でなければならない。そういえば、本作のオープニングも仮面ライダーやスーパー戦隊を放送する“ニチアサ”のように、キャラクター性を分かりやすく打ち出している。

重要文化財 狩野光信《豊臣秀吉像》(部分)
重要文化財 狩野光信《豊臣秀吉像》(部分)。慶長3年(1598)賛 京都・高台寺蔵(写真=大阪市立美術館/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

記憶喪失はニチアサがよくやる手

これまで仮面ライダーシリーズでは少なくとも「アギト」「キバ」「555(ファイズ)」「電王」「剣」の5作で、登場人物が記憶喪失になる展開があった(仮面ライダー公式ポータルサイトより)。スーパー戦隊でも「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」などに記憶喪失回がある。

もはや大河ドラマだからといって、または人気のある戦国大河だからといって安定した視聴率が見込める時代ではない。メイン視聴者である中高年、シニア層はこれからどんどん人口が減っていく。そんな2026年現在の分岐点、制作者たちが思い切って路線変更し、子どもたちや10代の視聴者を取り込もうとしているのかもしれない。

現に、主演の仲野太賀は「『子どもがハマって見ている』という声も多く、幅広い年齢層に見てもらえる作品を当初からめざしてきたので、うれしいです」と語っている(『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』)。

しかし、子ども向けを意識しているとしても、戦争の犠牲になった人の死をあまりきれいごとに昇華すると、多数派である中高年視聴者にそっぽを向かれてしまうリスクがある。

「どうする家康」(2023年)では、家康(松本潤)が信長の命で正室の築山殿(有村架純)と嫡男を死なせるくだりで、母子が「家康のためなら」と納得して死に臨んだように描き、「ファンタジー展開だ」と視聴者のテンションが一気に下がってしまった。

「豊臣兄弟!」はこれから本能寺の変や、秀吉が明智光秀を討つ山崎の戦い、さらに柴田勝家(山口馬木也)とその妻お市(宮﨑あおい)を滅ぼす展開になっていくはずだ。エクストリームに秀吉を善人に描くことにならなければいいが……。