「トランプにNO」報道の実態

次々に流れてくるメローニ首相礼賛の報道やSNS投稿の中でも、イタリアに暮らす私たちが特に驚かされたものの一つは、トランプ大統領がローマ法王を非難した際、メローニ首相が「受け入れ難い」と強く批判したという論調だ。「メローニはトランプにNOと言える、強いリーダー」と称賛されたのだが、実際はかなり違うのだ。

1月に起きたアメリカのベネズエラへの軍事介入についてローマ法王が懸念を示したあたりから、トランプ大統領と法王の不穏な関係が始まった。だがイタリアをも巻き込んだ騒ぎの発端は、トランプ大統領が2月28日にイランへの攻撃を開始し、4月7日に「今夜、イラン文明のすべてが消滅するだろう」と強烈な脅しをかけたことだった。

それに対し4月9日、ローマ法王は「容認できない脅し」であると公式に非難。さらに11日には法王が「世界の不安定化の背景には指導者たちの全能感の妄想がある」と演説し、トランプ大統領を名指しで批判した。

これを受けたトランプ大統領は、4月12日、「教皇はイランの味方をしており、急進左派に迎合している」「不法移民などの国内犯罪に弱腰で、外交政策においては最悪だ」「彼が教皇になれたのは私のおかげだ。不当に選出されたのではないか」などと罵詈雑言をSNSに投稿した。カトリック教徒が国民の7割を超えると言われるイタリアで、法王への侮辱に対し瞬時に非難の声が巻き起こった。

普段は力強い声で、怒鳴るように演説

それなのに、翌4月13日の朝、メローニ首相が法王レオ14世について出した公式コメントは、法王のアフリカ外遊に関するものだけで、トランプ大統領による法王への攻撃については一切触れないという、驚きの内容だった。野党や左派メディアを中心に厳しい批判の声が上がった結果、朝のコメントから9時間の後、ようやくメローニ首相は「受け入れられない」というコメントを発表した。

「メローニ首相 バランスと駆け引きの間で同盟の揺れを感じている」と報じるイタリア最大の発行部数を誇る全国紙「 La Repubblica」2026年4月1日
筆者提供
「メローニ首相 バランスと駆け引きの間で同盟の揺れを感じている」と報じるイタリア最大の発行部数を誇る全国紙「La Repubblica」2026年4月1日

つまり、ズバッとNOを突きつけたのではなく、「こう言っておかないとまずいかな、支持率が急低下し世界から孤立を深めているトランプ側と思われるのは自らの支持率低下にも拍車をかけるかも?」と計算した結果の発言だったと、イタリアの政治専門家たちは分析している。計算がうまいだけで、本当にアメリカにNOを突きつけているとはとても思えない言動が続いているのだ。

メローニ首相がアメリカのイラン攻撃について「国際法の枠外である」と演説した3月11日の動画が、「アメリカにもビシッとNOが言えることを示す証拠」だと日本では言われているようだ。だが、普段の彼女が、どれほど力強い声で、原稿などは見ず怒鳴るように演説するのかを知っているイタリア在住者から見たら、3月11日のあの演説は「仕方なく言わされている」としか思えない、頼りない様子だった。

原稿を見ながら、下を向いて、いつもよりずっとソフトに語る彼女の様子から、真の政治的信条からではなく、世論を計算に入れ悩み抜いた末の作戦だったことがうかがえた。それが日本では「ビシッとNOと言う素晴らしい首相」と報道されてしまったというわけだ。