「歴史問題」に持ち込ませなかった

ここで見落としてはならないのは、透明性という言葉が日本の自己正当化だけでなく、日本自身への制約にもなる点だ。説明を約束した国は、その後の政策変更についても説明を求められる。小泉氏はその負担を引き受ける姿勢を見せたからこそ、中国にも同じ負担を求められた。

中国側が歴史問題を持ち出すたびに、日本は過去への反省と現在の防衛政策を丁寧に切り分ける必要がある。そこを怠れば、中国側の宣伝に隙を与える。しかし、小泉氏は「何を持たないか」「何を透明に説明するか」という現在の基準を持ち込んだ。歴史カードを否定するのではなく、現在の軍事的実態を同じテーブルに載せた点が、会場での説得力を生んだ。

ひび割れた壁に描かれた中国と日本の国旗
写真=iStock.com/Barks_japan
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もう一つの見せ場は、ヘグセス氏への質問だった。防衛省の5月30日の臨時記者会見記録によれば、小泉氏は、米国が西半球を重視し、アジア太平洋への関与が小さくなるのではないかとの不安があるため、米国の揺るぎない関与を各国に共有してもらう思いから質問したと説明している。

米海軍協会ニュース(USNI News)が5月30日に配信した記事も、小泉氏が、米国の関与は揺るがないと感じる一方、それを過小評価する国もあるとして、安心供与のメッセージを求めたと報じた。

“日本主導”を明確にした「異例の質問」

日本の防衛相が公開の国際会議でヘグセス氏に問いを投げ、米国の関与を会場全体に答えさせた点で、これは異例だった。

この質問は、日本が地域の不安を言語化し、米国の関与を可視化する側に回ったことを示した。米政府公式サイトが公開したヘグセス氏の演説では、中国の歴史的な軍備増強への警戒と同時に、米中の安定的な関係を求める姿勢も示された。強硬一辺倒ではなく、米国の関与と地域側の主体性を同時に確認する場を作った点に、小泉氏の質問の価値がある。

従来の日本は、米国の抑止力に支えられる国として語られがちだった。今回の小泉氏は、その米国に対し、同盟国や周辺国が抱く不安を公開の場でぶつけた。これは同盟を揺さぶる質問ではなく、同盟を地域に見せる質問だった。中国が米国の関与低下を期待していたなら、日本のこの振る舞いは厄介だったはずだ。米国に答えさせることで、日米連携を会場全体の記憶に残したからである。

しかも、問いの相手を米国にしたことには計算があった。中国を直接問い詰めれば、会場は日中の応酬として消費されやすい。米国に関与を確認すれば、焦点は中国批判ではなく、地域秩序を誰が支えるのかという大きな議論に移る。小泉氏は日本の不安ではなく、周辺国が共有する不安を代弁した。そこに、単なるパフォーマンスを超えた外交的意味があった。