信頼を積み上げる機会を失った
中国にとって最も不利だったのは、会議の空間が「中国について語る国々」によって埋められたことだった。南シナ海、台湾周辺、サイバー、宇宙、情報操作、経済的威圧。中国の行動に対する懸念は多岐にわたる。ここで中国政府が高位の責任者を出し、自国の論理を展開していれば、議論はより複雑になったはずだ。
5月29日に配信されたロイターの記事によれば、豪州のマールズ国防相は中国の低調な参加を「機会損失」と見なし、中国政府には戦略的安心供与が必要だと指摘した。これは、軍事力を増やす国に対し、その目的、限界、危機管理の仕組みを説明せよと求める声である。
中国の立場から見れば、欧米主導の会議に過度な重みを置かないという判断もあり得る。中国には中国の土俵があり、香山フォーラムのような自国主導の場で安全保障観を発信する選択もある。だが、国際政治では「どこで語るか」が中身と同じくらい重要になる。自国主導の会場では雄弁に発信する一方で、懐疑的な相手が集まる場では高官を出さないとなれば、周辺国はその落差を見逃さない。
大国の外交力は、味方を集めた会場で拍手を得ることでは測れない。疑念を抱く相手の前で、厳しい質問を受けても論理を崩さずに説明できるかで測られる。今回のシャングリラ会合で中国が失ったのは、まさにこの信頼を積み上げる機会だった。
「小泉防衛相の反論」が突いた中国の急所
中国がせっかくの機会を逃した一方で、日本とっては国際社会に存在感をアピールする絶好の機会となった。その最大の要因は、間違いなく小泉氏の演説だ。
小泉氏の演説が効いたのは、中国批判の声量が大きかったからではない。議論の土俵を「日本は軍国主義化しているのか」から「どちらが透明性をもって説明しているのか」へ移したからである。防衛省が公開した演説全文で、小泉氏は地域秩序に必要なものとして「信頼、透明性、対話」を掲げ、日本の防衛力整備は高い透明性のもとで進めると説明した。
5月31日に配信されたロイター日本語版の記事によれば、小泉氏は、核兵器と戦略爆撃機を大量に保有する国が、そのいずれも持たない日本を「新型軍国主義」と呼ぶのはおかしい、という趣旨で反論した。核兵器と戦略爆撃機の対比部分では中国を直接名指しせず、軍事力の実態を会場に想起させる論法だった。
この反論は、日中における歴史問題にも目配せしている。日本にも、戦後の歩みを根拠に現在の防衛政策を説明し続ける責任がある。防衛費増額、反撃能力、装備移転の拡大は、地域の抑止に資する一方、説明を怠れば周辺国に警戒感を与える。小泉氏の強みは、日本自身の透明性を掲げたうえで、同じ基準を中国にも突き返したところにあった。

