「高官の不在」で疑念が深まった
もちろん、中国側代表は会場におり、発言もしている。だが、国防相級が正面に立たず、各国閣僚とのやり取りを十分に積み上げなかったことで、政治的には空白が生まれた。中国をめぐる疑念が会場に濃く残り、日本や米国、豪州、フィリピンなどがその疑念をそれぞれの言葉で語ったのだ。その空白に、小泉氏の言葉が鋭く入り込んだのである。
国際会議では、発言の巧拙だけでなく、議論のポジションの取り方が勝敗を分ける。相手がいない場で相手を批判すれば一方的に見えるが、相手が自ら高位の説明者を置かなければ、その批判は「不在によって裏づけられた疑念」に変わる。今回、日本の発言が強く響いた理由は、まさにそこにあった。
そして会場に残されたのは、中国の一度きりの敗北ではなく、それを超えるはるかに大きな問題の輪郭である。
欠席は演説よりも雄弁に語る
シャングリラ会合は、英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が主催するインド太平洋の代表的な安全保障会議である。各国の防衛相、軍高官、専門家が集まるこの会議では、何を語るかだけでなく、誰が来るか、誰が来ないかも政治的メッセージになる。
この会議の本質は、合意文書を作ることよりも、各国が何を恐れ、どの国と組み、どの相手に警戒しているのかを可視化する点にある。首脳会談ほど儀礼的ではなく、通常の記者会見よりも専門的だ。防衛相級が登壇して厳しい質問を受けること自体が、地域に向けた安心供与になる。軍事大国にとって、出席は単なる参加ではなく「説明する意思」の表示なのである。
5月28日に配信されたロイターの記事によれば、中国の董軍国防相は同会議を2年連続で欠席し、中国人民解放軍(PLA)系の研究機関や海軍関係者らが代表として送られた。さらに5月30日のロイター記事は、会場で「中国はどこにいるのか」という問いが浮かび、中国政府の代表団は例年より低調に見られたと報じている。
ただ、中国が完全に姿を消したわけではない。シンガポールのCNAが5月31日に配信した記事によれば、中国側代表団は中国人民解放軍国防大学の孟祥青少将らが率い、日本や南シナ海をめぐる議論でも中国の存在は大きかった。問題は、高位の国防当局者が会議の中心舞台で各国の懸念を正面から受け止める姿を見せなかったことだ。欠席は、ときに演説より雄弁である。

