1カ所直して全体が崩壊する「デグレ地獄」
「デグレ」とは「デグレード(退行・劣化)」の略で、プログラムの一部を修正した結果、今まで正常に動いていた別の場所が壊れてしまう現象を指します。
マンガで弱木が触れた「共通部品」というのは、システム内のあらゆる画面から使い回されているプログラムの心臓部のようなものです。そこを1カ所いじるということは、他の多数の画面にも一斉に影響を与えることを意味します。
弱木は念入りにテストを行い、無事にリリースしたつもりでした。しかし数時間後、顧客から「A画面の保存ボタンが反応しません」「B画面もエラーです」「C画面の入力チェックが効いていません」と、次々に他の画面での不具合が報告され始めます。
あわててA画面を直すと、今度は共通ロジックの別の条件分岐に影響が出てB画面がおかしくなる。B画面を直せばC画面が壊れる……。完全なデグレの連鎖です。
このように、複雑な共通部品の変更は「1つ直すと別の場所が壊れる」という負のループを生み出し、エンジニアを底なしの沼へと引きずり込んでいきます。
悲劇を生み出す「見えている世界」の違い
なぜ、このような悲劇が起こるのでしょうか。それは、デザイナーとエンジニアとでは、同じ画面を見ていても「見えている世界」がまったく違うからです。
デザイナーが主に見ているのは、画面の美しさや一貫性、ユーザーが触れたときの感覚、余白や視線の流れといった「体験の表側」です。だからこそ「ここが少しズレている」「入力途中はボタンを押せない方が親切だ」という違和感を、瞬時に拾い上げます。
一方、エンジニアが見ているのは、画面の裏側に広がる「構造」です。入力チェック、状態遷移、例外処理、非同期通信、そして共通部品の依存関係など、裏側でどれだけ多くの条件が複雑に絡み合っているかを常に意識しています。
この“見えている世界の違い”が、そのまま「軽微」という言葉の意味のズレにつながります。デザイナーにとっての「ちょっとした修正」は、本当に1分で終わる感覚かもしれません。
しかしエンジニアにとっては、それが共通部品の修正であり、他のすべての画面のレイアウト再計算やテストケースの全面的なやり直しを意味する「大工事」になることがあるのです。どちらも仕事としては間違っていないからこそ、前提のズレが衝突を生んでしまいます。


