どうにもならない。がんになった途端、生活保護のケースも
おひとり様患者が直面する、もうひとつの大きな問題が「金銭」である。
治療費や薬代は、高額療養費制度があるため、天井知らずで払うことはない。自己負担限度額は所得が一般に区分される場合、1月に約8万円(8万100円+(医療費-26万7000円)×1%)が上限になる。しかし、懐を痛めるのが差額ベッド代だ。厚生労働省調査によれば、この平均額は1日約5800円。公的保険の対象外で還付もない。しかも、がんは術後も長く付き合うケースが多い。生活費を1人でまかないつつ、月8万円をコンスタントに払うのはなかなか厳しい。先進医療などを試したい場合、負担は倍増する。
さらに、闘病による収入減が患者を襲う。体力の低下や長期治療によってこれまで通りの仕事ができなくなり、勤務時間の短縮、休職、転職した結果、収入が落ちていくケースは多い。「がんと診断された後、収入が減った」と答えたおひとり様は61%。減った割合は、「無収入になった」が26%で、半減以下は20%もいた。
メーカー勤務の吉住小春さん(仮名)は、4年前、最前線で活躍していた40代後半に乳がんが発覚。抗がん剤治療を受けた後、外科手術、そして約1カ月半の休職中に放射線治療を受けた。復帰直後は駅の階段を手すりなしでは上れないなど体力の低下を感じたが、その後、順調に回復した彼女でも、収入減は避けられなかった。
「がんを治療しながら勤務するのは、会社に前例がなく、人事もどう扱っていいかわからない。勤務時間を減らす提案をしても認められませんでした。結局、体調を見ながらということで資料整理のような雑務に替わったんです。周りには病気について告知しなかったので、急にどうしたんだろうという目で見られましたね。その後、別部署に異動しましたけど、役職もなくなって給料は3割程度減。一度下がった給与を元に戻すのは難しいです」
吉住さんは40歳までに簡易保険を払い終わり、ほかにも保険に入っていたうえ堅実に貯金していたため、経済面で慌てることはなかった。しかし今後については「この年齢で転職するのは現実的ではないから、今の会社を辞めたら最後だなという恐怖は常につきまとっています」と不安を覗かせる。