「予想もしてなかったので、頭は真っ白。医師にふたつしか質問できませんでした。ひとつは『仕事はどうなりますか』。解雇より仕事に穴を開けないかが不安でした。もうひとつは『家族に伝えないで治療を受けることはできますか』。知ったら悲しむし、負担もかける。できることなら知らない間に治せたらベストかなと……」

しかし医師は、抗がん剤治療は1人では難しいと返答。天野さんは悩み、家族に話すまでに1週間を要した。結局、母親は淡々と話を聞いて「病気になったものはしょうがない。治していこう」と受け止めてくれたという。

天野さんは病気を告白した例だが、男性は総じて相談を躊躇する傾向が強い。

「相談できる相手」をまとめたアンケートでは、女性のおひとり様は順に「友人」「兄弟姉妹」「恋人」だったのに対し、男性は「いない」がトップ。HOPEプロジェクト理事長・桜井なおみさんは、「女性はオープンだけど、男性は閉じこもりがち」と分析する。

「乳がんの患者会など、女性は集まる場がいっぱいあるのに、男性はほとんどない。相談会を開いても、参加者は少ないです。1人で抱え込んでしまうのでしょう。女性はその時期があっても、それから『私、困ってます!』と声を上げて動くんですけどね」

調査から浮かび上がってくるのは、おひとり様の男性患者が1人で悶々と悩んでいる状況である。そのように孤立しても、いいことはほとんどない。

「闘病中は免疫力が落ちて、風邪をひきやすくなる。1人でうなってると心底不安になりますし、僕が副作用で肺炎になったとき、1人で救急車を呼んだり、入院の準備をするのは本当に大変だった」(天野さん)

他人に相談すれば気がはれるし、同じ立場の患者から治療に関する有益な情報が入ってくる可能性も高い。その機会を自ら失ってしまっているのだ。