しがらみがあってこそ堕落が楽しい

【田中】小説も堕落を書くほうがおもしろくなりそうです。たとえば「思わず箱根に行ってしまった」という状況は小説になりそうな感じがするし、そこからストーリーとして何かが出てきそうな予感がします。

田中慎弥・落合陽一『堕落論 住めば都のディストピア』(徳間書店)

箱根に行っちゃったけど結局何もしなかった、「ああつまんねえ」と思うところまで含めて堕落といえます。目的も生産性もない時間を過ごすことへの罪悪感と快楽がそこにはある。堕落している側にも、「何やってんだ自分は」という忸怩じくじたる思いはあるはずで、そうした自己嫌悪を含んでこその堕落です。

さらにいえば、守るべきものやしがらみもあったほうがいい。妻子を置いてふらりと箱根に行ってしまうから小説になるのであって、家族と一緒にのんびり箱根観光するのは、単なる金持ちの幸せな道楽になっておもしろくない。守るべきものがあるのに、後ろ髪を引かれながらもそれを放棄する、という構図がないといけません。

そう考えると、堕落とは多分に心持ちの問題となってきますね。世の中のディストピア化が進んでいると述べましたが、ディストピアでも堕落はでき得るのだという気もしてきます。「住めば都」ということでしょうか。未来のディストピア世界も、住んでしまえば案外悪くない場所なのかもしれません。

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