「ビール飲んじゃおうかな」と思う朝

【落合】そういえば最近は、既婚者同士のマッチングアプリまであります。「そんなのアリですか?」というものが平気で存在するようになっている。本来なら背徳的で堕落に属するものであるはずの不倫さえも、システム化され資本主義に取り込まれ、安全にパッケージングされている。こういうのを「ファッション堕落」と名づけていいかもしれません。背徳感がありながら商業化され、エンターテインメント化した堕落です。

いっぽうで私はたまに、朝起きて「ああよく寝た」と思った次の瞬間に、「ビール飲んじゃおうかな」と思うときがあります。これは「ファッション」とは付かない本式の堕落です。社会的な時計を無視して、自分の身体の欲求に従う。体調がいいときに飲む酒がいちばんうまい。

元旦は多くの人がそんな気分になりますよね。一月一日は人々が堕落する日と考えられます。すっきり寝て、朝、おせちを片手に日本酒を飲む。そう考えると、週四日くらい正月のような生活をしている人は、けっこう正しく堕落しているのかもしれない。

ささやかな社会への反抗

【落合】または平日の十一時半あたり、街のレストランが開く時間帯に、新橋などサラリーマンが多い場所の中華料理店で、彼らの間に混じって餃子とビールをやる。これももちろん堕落です。周りの人たちがあくせく働いているなかで、「こっちは仕事をサボって、社会の歯車になることから降りて、堕落の真っ最中ですよ」と見せびらかすのが痛快なのです。一種のマウンティングに近いかもしれませんが、社会規範に対するささやかな抵抗ですね。

これが旅行に出るとなると、意外と堕落って感じじゃなくなってしまう。「日比谷線で最後まで行ったらここに着いちゃった」とか、「朝なんとなく小田急に乗って箱根まで行っちゃう」とかならいいのですが、最初から「鬼怒川温泉まで行くぞ、十三時の特急に乗って、十五時にチェックインして……」と予定していると、あまり堕落っぽくない。それは「観光」というタスクをこなしているだけです。

おそらく「適度にサボる」というのが重要なのでしょう。ささやかに社会に反抗し、ささやかにサボる。大きく反逆したり、だれかに危害を加えたりするわけではないけれど、ささやかにシステムのエラーになるという姿勢が重要です。