なぜ日本では格差が縮まらないのか
なぜ、わずか数カ月の誕生日の違いが、大人になってからの教育年数や所得にまで影響してしまうのでしょうか。一つは、教育の積み重ねによる影響です。学年の中で相対的に幼い子どもは、小学校の段階から学力や非認知能力で不利になりやすいことが、埼玉学調の分析でも明らかになっていました。
この小さな差が中学・高校の進学先の選択に影響し、最終的に修める学歴に違いを生じさせます。学歴のわずかな差は、その後の就職機会やキャリア形成にも波及していきます。もう一つは、日本の雇用慣行との関係です。
日本では依然として新卒一括採用が主流であり、最初の就職先がその後のキャリアに大きな影響を及ぼします。また、学歴が就職や昇進に強い影響を持つこともよく知られています。したがって、生まれ月の違いによって生じた小さな教育年数の差が、その後の所得格差につながりやすいのです。
ここで強調しておきたいのは、この影響が「本人の努力不足」によるものではないということです。むしろ、入学時点での月齢の違いがきっかけとなり、学校教育や雇用制度の仕組みの中で差が固定化されていく、と理解するほうが適切でしょう。
海外では働き盛りになると差が消える
このように、生まれ月が大人になってからの所得にまで影響するという事実は、教育政策や雇用制度のあり方を考える上で無視できない示唆を与えています。日本の研究に加えて、海外の研究でも同じ問題について調べられています。スウェーデンの経済学者フレドリクセンらは、全国規模の行政データを使い、生まれ月が教育や労働市場に与える影響を分析しました(※1)。
※1:Fredriksson, P., & Öckert, B. (2014) “Life-Cycle Effects of Age at School Start.” The Economic Journal.
その結果、早生まれの子どもは大学進学率がやや低く、最終的に修める教育年数も短い傾向があることがわかりました。ところが興味深いのは、その後の所得です。研究では、25歳から54歳までの、いわゆる「働き盛り」と呼ばれる年齢層に達した時点で比較すると、生まれ月による賃金の差はほとんど見られませんでした。
教育の差は確かに残るものの、労働市場に出て経験を積むうちに、初期の不利が解消されていくと考えられます。アメリカでも同様の研究があります。ドブキンらは、カリフォルニア州とテキサス州の大規模データを用い、学校入学の基準日を利用して早生まれの子と遅生まれの子を比較しました(※2)。
※2:Dobkin, C., & Ferreira, F. (2010) “Do School Entry Laws Affect Educational Attainment and Labor Market Outcomes?” Economics of Education Review.
その結果、早生まれの子どもは大学進学率が低く、若い時期の所得もやや低いことが確認されました。しかし、長期的にみるとその格差は縮まり、「働き盛り」に入るころには明確な差は残らないことが示されています。このように、生まれ月の影響はどの国でも一定程度確認されていますが、その「持続の仕方」には大きな違いがあります。

